「五月蝿い……。食事には時間をかけたいタイプなの」



この温もりも、匂いも嫌いじゃない。
むしろ、心地良いのだ。
ずっとこうしていたいと思う程に。
けれど、そういうわけにはいかない。
餓えが始まれば、本当に加減できなくなる。



「噛むわよ」


「どーぞ」



抑揚の無い返答と共に少女の鋭い牙が深々と首筋に突き立てられた。
迫りくる痛みと熱に眉をしかめる。



「やっぱそれなりに痛いんだな……」


「直に好くなるわ」


「俺はマゾじゃねーっての!」



流れ出る血に黙々と少女は舌を這わせた。
貪欲にただひたすら血を啜る。



「ん……っ…ん…っん」



久方ぶりの血に夢中になる。
甘く甘美な味わいに我を忘れてしまいそうだった。
けれど、今自我を手放して本能のままに血を啜れば彼の身が危うくなる。

それ以上牙を突き立てることはせず、首筋から滴る血を舌で舐めとる。
傷口に触れた時、青年の顔が苦し気に歪んだ。



「そこばかり舐めるのは何で?」



「貴方のその痛みに歪む表情が気に入ったから」



「悪趣味……」



ははっと笑うと、青年は血を啜る少女に酷く優しい声音で尋ねた。



「君の名を教えてよ――」