なぜ、灑梛は走っているのか。
それは、今から一時間程、時を遡る。


◇◆◇◆◇◆◇

灑梛は、いつも独りだった。運動場では、たくさんの子供が遊んでいる。

しかし彼女は、どこか諦めた表情をしていた。
なぜ、自分が周りから避けられるのか…それは、幼い灑梛にも薄々勘づいていた。

自分の目は珍しい。
周りを見ても、誰も紅眼はいない。皆黒眼だ。


しばらくボーッと外の景色を見ていると、部屋に誰か入って来た。

「ほんとだー」
「わぁー、かわいい!」

それは、灑梛の同級生だった。何かの人形で遊んでいる。しかし灑梛は、興味を示さなかった。

基本独りでいたい灑梛は、クルリと踵をかえした。自分がいれば相手も不快な気持ちになる…
灑梛の、細やかな気遣いだった。…しかし。

「あ…」

幼女達が使っていた小間物が、灑梛の足元に転がってきた。
灑梛は小間物を拾い、無言で幼女達に近寄る。

『…どうぞ』

そう言い、小間物を手渡す。しかし幼女達は、灑梛をキッと睨みつけた。

「ちょっと、さわんないで!!」
「そうよ、やめてよ!!」

口々に言われ、灑梛はどこか別の場所に行こうと出入口に向かった。すると後ろからひそひそ話が聴こえた。

「ねぇ、しゃなちゃんのめって、へんだよね」
「うん、こわいよね」
「あかいろだよ、わたしたちとちがう」
「きもちわるい、そばにこないでほしいよね」

最初の会話だけなら、まだ灑梛も我慢できた。
しかし、幼い灑梛に、気持ち悪いと言われ、さらには近寄らないでほしいと言われて傷付かない心は無かった。

出入口の前でピタリと止まり、クルリと振り向いてツカツカと幼女達に近寄ると、気持ち悪いと言った幼女の髪を引っ張り目線を合わせた。

「な…なによ!?」
『うるさい』
「はぁ?」
『うるさいっていってるの。わかんない?』

無表情の灑梛を見て、幼女達は言葉を失う。

『ひとのわるぐちいわないって、おしえてもらわなかったの?』

パッと髪を放すと、幼女はペタリと座り込んだ。

踵をかえし、灑梛は出入口をくぐって玄関に向かい、靴をはく。

「灑梛ちゃん?どこいくの?先生と遊ぶ?」
『あそばない』
「じゃあ、どこに行くの?」
『そと』