あたしと涼太の付き合いは、いつしか学校公認…のようになって、
みんなが羨むカップルだった。
−−−−−−−
昼休み。
あたしはいつものように涼太のクラスの前で待っている。
「あ!夕葵ちゃん!涼太なら今職員室だよ?」
そう教えてくれたのは、涼太の親友の佐々木アキラくん。
「あ、そうなんだ。ありがと!」
「いえ×2♪…にしても、よく涼太と付き合う気になったよね?」
「なんで?」
「だってアイツ、めちゃくちゃエロくない?」
「…どうだろ。」
「えっ?!もしかして夕葵ちゃんもエロい系?!」
「バァァァカ。お前と一緒にするなよ。俺ら、まだプラトニックな関係だから♪」
突然、涼太があたしの頭の上から会話に加わる。
「嘘だろ?!だって付き合ってもう3ヶ月経つじゃん??」
…そう。
あたしたちは、キス以上したことがない。
正直、淋しい…
「夕葵との初エッチん時までに溜めて溜めて溜めて…出す!!
そう決めてんの♪」
「「…変態。」」
アキラくんとあたしは顔を見合わせて言った。
「どうとでも言え♪」
涼太は悪戯っ子のように笑う。
「んじゃ、夕葵飯食いに行くぞ!」
「う、うん」
あたしたちは旧図書室に向かった。
あたしはお弁当を食べながら、向いに座る涼太に
「…ねぇ。涼太…なんでエッチしないの?」
ストレートに聞いた。
「ッブ!!何をいきなり言うかと思えば…」
あたしは恥ずかしくなって下をむく。
「…そりゃぁ、俺もお年頃ですから…今すぐにでもしたい。ホント、今すぐココでしたいくらいなんだぞ?
…でも…。」
「でも?」
「夕葵の中の何か…か、誰か…かは、わかんねぇけど、それがいなくなって、俺で全部埋めつくされたら…抱く」
「…涼…太。」
「…だから俺は焦らないし、待つから。」
「…うん。」
「そのかわり…抱く時はおもいっきりイヤらしくやらせていただきます♪」
「…バカ」
涼太はあたしの頭を撫でて、軽くキスをしてくれた。
−−−−−−−
涼太は気付いていたんだね。
あたしの中で消化出来ていない事がある事を…
「そいやぁ、なんで職員室に行ってたの?」
「あぁ。今度うちのクラスに来る外部講師の話を聞きに♪」
「外部講師?」
「そう。残念な事に男だったんだよなぁ…」
「な、何を期待してんの?!」
あたしはわざとプゥ〜と膨れてみせた。
「いやいや…そういう訳じゃ。って可愛いな♪夕葵は♪」
そう言って、あたしをひょいとお姫様抱っこをし、
そのままあぐらの上に座らせた。
あたしは、恥ずかしくて顔を伏せる。
「夕葵?」
チラっと見ると、涼太の視線にまた動きを封じられてしまった…
「ずるい…」
「ずるくない…」
徐々に近付く涼太の顔…
あたしは、唇が重なっている間も目を閉じずに涼太を見続けた。
「もうホントに限界…早く俺だけでいっぱいになれって…」
涼太は一度唇を離し、目を閉じたまま言った。
あたしは、涼太の首に腕をまわして、
「もう少しだけ…待って」
そう答えるしか出来なかった。
−−−−−−−
「…で、その先生はカッコイイの?」
「お前…俺様にお姫様抱っこされて密着してる時によくも他の男の話できるなぁ…」
「…だって…気になって♪」
「そんな先生の事なんか気にしないで、俺の今の下半身事情を気にしろっっ!!」
「……」
あたしは目線を下げた。
「…ご、ごめん。」
「俺、かなり我慢してるんだからな…?
正直…前みたいに目の前で着替えられたら…抑えきれないかも♪」
「…気をつけます」
「…てか、先生、高橋大和…とかいったかな。
実物見てないけど、写真では超イケメンだったけど?」
え…?
今なん…て?
高橋…大和…?
うそ…
「…夕葵?どした?」
「もしかして…教科…数学?」
「そうそう!数学!」
同姓同名??
それとも…本人??
あたしは、身体全体から力がぬけそうだった。
−−−−−−−
1年前。
あたしは、サチと同じ塾に通っていた。
あたしは…勉強の為に通っていたはずが、いつしか違う目的で塾に通うようになっていた。
−−−−−−−
高橋大和…
あたしとサチが通っていた塾の数学の先生…
見た目もよくて、とにかく優しい…
…24歳という事もあって、高1のあたしからしたら大人で…
憧れの人…あたしは、淡い恋心を抱いていた。
彼のまわりははいつも爽やかなシトラスの香りがしていた。
−−−−−−−
「高橋先生!」
「おぅ!石川!どした?」
「この前のテスト、学年2番でしたぁ♪」
「すごいなぁ…石川はいつも10位以内だったよな?頑張ってるなぁ!」
「でしょ♪1番取ったらご褒美ちょうだい♪」
「そうだな…考えとく!」
「絶対だよ?約束ね!」
−−−−−−−
あたしは高橋先生のご褒美の為にがむしゃらに勉強した。
…でも、1番になる事は叶わずにいた。
「…先生。あたしまた2番でした。STAY SILVERだよ…」
「順位ばかり気にするな!石川が頑張ってるのは俺が一番知ってるから…」
「…でも…先生のご褒美欲しかったし」
フワっとあたしのまわりがシトラスの香りでいっぱいになったのに気付いた時には、
あたしは先生の腕の中だった。
「…先…生?」
「っ!!…悪い。」
先生は、あたしを腕の中から解放した。
「…やだ。離さないで下さい…」
あたしは自分から先生の腰に腕をまわした。
「…あたし…先生が好きです」
先生はあたしを力いっぱい抱きしめてくれた。
あたしは、その日、先生の家に行った。
部屋に入ってすぐにあたしは先生に抱きしめられた。
「…夕葵…」
先生の唇があたしの唇に重なった時には、もうあたしは先生しか見れなくなっていた。
初めてのキス…
初めての愛撫…
初めての人…
男の人の吐息がこんなにあたしを狂わすなんて思わなかった。
あたしも…こんなに男の人を求めるなんて…
「…や…まと…好き」
−−−−−−−
大和はあたしをいつも優しく抱いてくれた。
あたしを大和好みの女にしていってくれてると思ってた。
でも。
何度、身体を重ねても…
あたしがどれだけ「好き」って言っても…
あたしにたくさんキスしてくれてても…
「好きだ」って言ってくれなかった。
あたしが「好き」って言う度に、いつも辛い顔してたよね。
それを見るのが辛くて、怖かった。
だから、あたしは大和に「好き」って言わないようにしたんだ。
あたしは、大和と一つになれてるだけで幸せで、いつも心の中で「好き」って言ってたんだよ。
−−−−−−−
あたしは大和に嫌われるのが怖くて、大和に二度と会わなかった。
最後に抱かれた日…
大和の誕生日だったよね。
一生忘れられない誕生日にする為に…
「4組に超カッコイイ先生来たらしいよ!!」
あたしのクラスでも噂になっていた。
「聞いた?夕葵!4組の外部講師の話♪見てみたぁぁい!!」
「…あんまり興味ないな…あたし。」
「いいじゃん♪見に行こうよ!!」
サチは無邪気に言う。
「あ!!あの人じゃない?!すごい!女子に囲まれてるわぁ…。
ね、夕葵、見に行こ!」
あたしはサチに無理矢理腕を組まれて、その女の子達の塊に連れていかれた。
ほのかに鼻をかすめるシトラスの香りが、あたしを惑わした。
あたしは、その人の名前を口に出した??
…出してない。
それなのにその人はあたしの方に振り返った。
あたしは、その人から目が離せなかった。
その人もあたしを…あたしだけを見た。
一歩、一歩…とあたしに近付く。
あたしは、目をギュッととじた。
あたしの横をシトラスの香りが通り過ぎる。
今度はあたしが名前を呼ばれたかのように、振り向いた。
あの時と同じだ…
辛そうな顔をして、あたしを見ている。
そんな顔であたしを見ないで…
「やま…と…」
あたしは誰にも聞こえないように呼んだ。
大和は、そんなあたしを見て、
「ゆうき…」
声に出さずにあたしを名前をよんだ。
「夕…葵…」
サチが大和に気付いて、あたしの腕をギュッと掴む。
「あたしは大丈夫…だから。」
「…でも。」
「すごいよね…こんな事があるなんて…ビックリだよ」
「やだ…夕葵、泣かないでよ…」
あたしは自分が泣いてるなんて気付いてなかった。
「…ごめん。サチ…あたし…」
「何も言わなくていいから…行こ…」
教室に戻ろうとした時、
「…夕葵?どした?」
あたしの前に涼太がいた。
今、涼太には会いたくない…
「…ごめん。涼太…」
「は?どうしたんだって聞いてんじゃん!!」
あたしは、涼太があたしを掴もうとした手を振り払って、その場を去った。
「夕葵っ!!」
涼太の声はあたしには聞こえなかった。
−−−−−−−
もう、授業終わっちゃってるな。
気が付いたらあたしは、旧図書室にいた。
涼太…怒ってるよね。
あたしは携帯をポケットから取り出した。
受信Mailや着信履歴は、涼太とサチでいっぱいだった。
あたしは、携帯のアドレス帳を見た。
《大和》の番号を出す。
いつかかかってくるかもしれない…と、残しておいたメモリー。
あたしはTEL番もメアドも変えてない。
何を期待してるんだか…
すると携帯がバイブした。
液晶画面には《大和》… とある。
携帯を持つ手が震えた。
「…もしもし」
「…夕葵?」
「うん…」
「今…どこにいる?」
「…なんで?」
「……」
「今…旧図書室にいるの」
「…わかった。今から行くから…」
「…うん」
ドキン…ドキン…
ドキン…ドキン…
あたしは…どんな顔をしたらいい??
大和は…どんな顔するの?
しばらくして、旧図書室のドアが開いた。
その瞬間にシトラス香りがあたしまで届く…
振り返る??
どうする??
身体に力がはいる。
「…夕葵」
声に出されたあたしの名前…
あの時の気持ちが溢れてくる…
「…や…まと…」
あたしはまだ振り向かない…
「夕葵…」
あたしのすぐ後ろで、あたしの名前を呼ぶ…
あたしの肩に指が触れる…
あたし…戻れなくなっちゃう…
「っ大和!!」
あたしは振り返って、目の前の大和に抱き着いた。
大和はそんなあたしを抱きしめてくれた。
昔あたしが求めた人が今あたしの目の前にいる…
「会いたかった…」
大和はあたしの耳元で言った。
大和はあたしの唇をそっと指で触れ、
あたしの唇に大和の唇を重ねた。
あたしたちは何度も何度もお互いを確かめるようにキスをした。