実にあり得ない。かなり、あり得ない…相当…あり得ない。


さっきの“お兄さん”口調は何処へ行った?
 海じゃない、まるで猫がライオンに変わるその瞬間を目の当たりにしたみたい…

にっこりと微笑む海。苦笑する私。


「え、っっと…」


急に弱腰になる私。 分かる、今なら海の瞳の中には“弱者(縞馬とか、草食系の動物)を見つめる強者(ライオンとか肉食系)”に似た魂が眠っていることを……。


だって、明らかに合わせてしまえば、離せない眼差しは強者そのもの。
 再びにやりと笑う海。


「え?これは、“調理実習”ってゆー奴だよ。」

「は…はぁ。」



唖然、とする私。「だから、何?」と訊きたい所だが、こんなにも恐ろしい眼差しで見る海に言える勇気があるのならば、私は素手でライオンを倒せることであろう。


「だ・か・ら、次回、作る美菜の料理は俺を越えなきゃいけない訳。」


中学生の料理と9歳の少女の料理を比べるなんぞ馬鹿げてる…。

「…もし…、越えなかったら…?」

「うーん、3回までなら許す。しかーし、4回までいったら…」

「もし、いったら……?」



生唾をこの時飲んだ覚えがある。


「美菜は、俺の一生の“下僕ちゃん”♪」

「へ?」

「“へ?”じゃないよ。ガチだから。」