「本当・・・」

弦のお母さんの顔色が
明るくなるのが分かる。

「明日、私は出て行きます
 
 二度と
 ここへは戻りません」

そう話しながら、涙ぐむ千景
の顔が、恋を失った頃の本当
の娘・弓と重なり、弦の母親
の胸を熱くさせる。

何かが違う

間違えている?

そのような気はするが大切な
春華を失いたくない
その思いの方が勝っていた。

「ありがとう」

そう、言い残して二人は
帰って行った。

閉まるドアの音と共に
座り込む千景。

誰かに、ここを出て行く事を
話したら、居ても立っても
いられない気持ちになった