この物語は17才の娘と14才の息子を置いて出て行った母親の行動から始まる―――。
「もう春だね。クロ」
隣を歩く全身を真っ黒の毛皮で包んだ黒猫のクロに話しかける。
「にゃー」
ありきたりなネーミングに文句も言わずに返事?をしてくれたクロは地面から塀に飛び乗った。
相変わらず脚力が半端ない。運動神経が皆無なわたしは羨ましく思う。
咲いたばかりの桜が風に揺らされる。枝から離れた花びらはひらひらとわたしの手のなかに文字通り舞い落ちてきた。
なにかいいことが起こりそうな気がして鼻歌なんて歌いながら帰路についた。
数分後、自分の運命がガラッと変わるとも知らずに…