「森山さーんっ」

といきなりの声にびくっと肩を震わせる。

「なに?」

目の前にいたのは渡辺広矢。
見ず知らずの彼だった。

「ね、あっちいこ?」

馴れ馴れしい…

あっちと指差を指した先には屋上があった。
ガラスの窓ごしの屋上。

「いや……」

といいかけたあたしはもう彼にひっぱられ、走らされていた。

軽い犯罪だよね…

なんて思いながら走る。
後ろでは女子がうるさかった。
その中で愛ちゃんは瞳を曇らせ、うつむいていた。

長年いるあたしには分かった。

愛ちゃんは、彼のことが好きなんだろうと―――