「橋口って、何人兄弟?」


不意に話しかけられて、絵美は顔を上げた。



「お兄ちゃんと二人兄妹だよ。…桐生くんちは、兄弟多くてうらやましいね」


「そうかな。…まあ、子供の時はよかったかな…」



子供の頃は本当によかった。爽といつも一緒で、暦もいて。


開も今ほどとっつきにくい感じじゃなかったし。


一体いつから、自分達兄弟はバラバラになってしまったんだろう。


何でも相談できた爽の存在が、今や最も遠いものになっている。

相部屋にしたら、少しは昔みたいに話ができるんじゃないかと思ったが、ますます溝を深めただけのような気がする。


「あの夢」の話だって、前は気兼ねなく話せたのに。最近は自ら口にすることもためらわれた。


そもそも、あの夢はなんなのか。


あれは俺の前世とかいうやつなんだろうか…。



「桐生くん?」



絵美に訝しげられて我に帰る。見下ろした顔が、今日はやけに可愛く見えた。



「ごめん。ちょっと考え事してた」



慌て笑顔を向けて、凛は爽の顔を頭から打ち消す。


ふとその時、向こうから自転車が勢いよく近づいて来て、凛は咄嗟に絵美を抱き寄せた。



iPodをした学生が、猛スピードで自転車を漕いでいく。



「危ないなぁ」



凛は絵美の肩を抱き寄せたまま自転車を見送った。途端に、絵美のシャンプーの匂いに気がついて、慌て手を離す。



絵美が暗がりの中でも真っ赤になっているのがわかった。



なるべくそれとなく、凛は「大丈夫だった?」と声をかけた。



絵美はコクコクと小さく頷く。


やっぱり可愛いな、と凛は自分の胸に何かが芽生え始めていることを自覚した。