―ピンポーン
こんな時に誰だと扉を開けてみれば、予想もしていない人物だった。
「…久しぶりだな…」
少しやつれているようなその顔は何週間ぶりだろう。
「杉沢 喜一…」
俺とあまり年が変わらない夢月の兄だ。
「…やつれたな……」
「…お前もな」
そんな皮肉を言い合っても、お互い胸が苦しくなるだけだ。
「お前に渡すモノがある。遅くなって悪いな。正直渡すか迷った。お前が何事もなく立ち直れるなら…これは返って辛い傷を残す事になると思ったんだ」
杉沢 喜一は黄色い無地の封筒を俺に渡した。
手紙……か…?
「…でも…お前にはこれが必要みたいだな…」
そう言って背を向け歩いて行く杉沢 喜一の姿を見送り、部屋へと戻った。
―ガチャン
家の中に入れば、あるのは悲しいほど静かな空間だった。
何故こんなにも静かなのか。理由はわかってる。
「あいつがいないだけで…こんなに変わるのか」
あいつがいた頃のこの部屋はその存在だけで太陽が在るような…それくらいに輝いて、温かかった。
手にあるのは黄色い無地の封筒。宛先も差出人も書いていない封筒。
―ガサガサガサ…
「…手紙…か……」
手紙の一番下に書かれていたのは、夢月という愛しい人の名前だった。