その春風が、またあの私の知らない低い声を使って、耳元で囁いた。


「前言撤回、ね」


「ぜ、ぜん、げん、だと……?」


この期に及んでだが、私は喧嘩腰にそう尋ねる。今の私じゃ春風どころか、チワワにも負けちまいそうな勢いなのに。


耳に、春風の少し笑った息がかかり、少しくすぐったい。私の動揺なんか予想済みってか。何なんだ、春風大人モード!


「ひーちゃんだけは可愛くても好きになれないってやつ、あーれ。……だって俺、好きに、なっちゃったもん」


何となく予想出来たそれだが、聞いた瞬間、ガツン、と後頭部を殴られたような衝撃が走った。


「ふふっ!ひーちゃんってウブだよね。そういうとこ、かわいーわ。じゃーね。また、生徒会の時に」


未だに衝撃で動けない私を尻目に、春風は目の前の自分の家に颯爽と立ち去った。