前から走ってきた女の子は犬を抱えると、ぺこりと一礼した。
「すみません。すーちゃんが」
「いっいえいえ……」
「「…あ」」
「え?」
柊也と女の子は目が合うと声を揃えた。
知り合い…なのかな?
「一ノ瀬さん、昨日は本当にありがとうございました」
「あぁ」
「ところで……貴方は彼女ですか?」
「ち、違うよ」
「じゃあ、友達?」
あれ…私と柊也の関係ってなんなんだろう。
友達って感じでもないし…ただの知り合いっていうのも遠い。
部活仲間、がちょうどいいのかな。
「えと……部活仲間…かな」
「へぇ。そうですか…良かった」
「え?」
「いえいえ。……あ、それでは失礼します。一ノ瀬さん。…浅井さん」
また犬を地面に下ろすと、散歩を再開した。
今、私の名前……
「早く行くぞ」
「あ、うん」
何も不幸なことは起こらずに無事に家にたどり着けた。
鍵……あ、忘れてる。
インターホンを鳴らすが、誰もいないみたいで。
凪さんは買い物かな。
「どうした?」
「鍵忘れちゃった」
「…バカだろ」
寝坊して急いでいたから鍵のことなんて頭になかった。
とりあえず、凪さんに電話しよう。
「……もしもし、凪さん?」
『はい、静音様。どうかされましたか?』
「うん。家の鍵忘れて行っちゃってて…」
『左様でございますか。もうすぐ帰りますので待っていてください』
「わかった」
良かった…。
もし用事ができて帰れない、なんて言われたら夜になるまで家に入れなかった。