「ねえねえ、仲原君だっけ?仲原君って、カラオケ好きなの?」

隣りの吉倉さんが、囁く声で言った。

おいおい、授業始まってるよ…。

でも、好きな事を質問されるのは嬉しい。

「うん、好きやで」

囁く声で返した。

「何歌うの?」

「色々、何でも歌うで」

「例えば?」

「バラードでも、ラップでも、演歌でも歌えるで。洋楽でも」

「洋楽!じゃあ英語得意なの!?」

「ごめん、冗談。日本語しか無理やわ」

俺がそう言った時、教壇から咳払いが聞こえた。

「吉倉さん、授業始まってますよ!」

あら?
一番後ろの囁き声が教壇に聞こえたみたい。
ってか、転入初日の俺はお咎めなし??

吉倉さんは、「すみません」と謝り、しばらく反省したフリをして、教科書の端に『うそつき』と書いて微笑んだ。

よく笑う子だな…。
吉倉さんの顔を見た時、高確率で吉倉さんは笑っている。

俺は、自分のノートに『関西人はうそつかない』とお返しした。

吉倉さんは、俺のノートに、『さっきついたでしょ?』と書き加えた。

『あれはウソじゃない。、冗談』

『どう違うの?』

『ウソは、ダマすこと。冗談は、笑わすこと』

二人でずっとノートに書き込んでいるので、ノートがチャットのような感じだ。

『じゃあウソだ。私、面白くなかったもん』

ノートに新しく書き込まれた文を読んで、ちょっとショックを受けた。

別に吉倉さんを笑わそうと思って、韓国の曲を歌えるなんて言った訳ではない。

その場のノリで言ったのだ。

話を少し広げようと思って言っただけなのだ。

だから別に面白い訳がない。

ギャグでも何でもないんだし…。

だけど、ストレートに面白くないと言われれば、関西人のプライド(?)が傷ついた。

『じゃあ今度、笑わせてみせます』

ノートに書き込み、吉倉さんに渡した。