「それでは後日、お主達が出発する日を教えよう。他のものには教えるのかの?」
「あぁ。あ、皆には言わなくていい。俺と刀儀は、それぞれ別の修業をしてることにしといてくれ」
皆に、嫌な波紋が広がるのも良くない。
『何故自分を連れていかなかったのか』…とか。
まぁ、俺の考えていることが分かる奴は、きっと理由が分かるだろう。
「そうじゃな。ではま、今日はさっさと寝て…出発の日に備えよ。お主達には…期待しておるからの」
「…あぁ。必ず、もっと強くなる」
俺は決意を示すように、拳を強く握った。
なにものにも立ち向かえる『強さ』を、俺は手に入れる。
――…とある場所にある、城。
ここは負の空気が蔓延る、悲しみの深き空間。
そこに、跪く男が一人。
「カミヤ ケイシが動き出したようです。…キジィーム様」
しん、とした空間に、彼の声だけが響く。
「……そうか」
まるでなにもかも見えていたかのように、キジィームと呼ばれた男は頷いた。
「…こちらも、動き出しますか」
男は搾り出すように声を出した。
「…まだ早い。まだまだ…」
キジィームは、空気を揺らすほどの笑みを浮かべた。
そんなキジィームを見ながら、跪いていた男はそっと闇に消えた。
「……………カミヤ ケイシ………!!」
キジィームがその名前を呟いた途端、耳を劈くような轟音がし、周りの物体が一気に消え去った。
力を放出した後も、興奮を抑えきれないとでもいうように、キジィームは血走る目を見開いたままだった。
――…闇はまだ、真の姿を見せない。
まだ朝靄がかかっている中、
「んじゃ、行ってくるな、リョク」
「……行って来ます」
俺と刀儀は、必要な荷物を持ち、スペルスクールの門の前で、リョクに見送られている。
「はい。気をつけて行って来て下さい。何かありましたら、これで、通信して下さい」
リョクは俺達に通信用の魔力がこめられたリングをくれた。
「さんきゅ!!んじゃ!!」
にこやかに見送ってくれるリョクを最後に、俺達は振り返らず道を進んで行った。
「……なぁ、聞いてえぇか」
「え?あぁ、何を?」
暫くして、刀儀が俺に話しかけてきた。
つーか、刀儀の奴…前より色々…上がってる気がする。
身に纏うオーラっつーか…まぁ、要するに魔力が強くなってる。
修業、したんだろうな。
「…何で、俺なん?」
「え。元人間同士だろ。やっぱ…強くなりたい気持ちが、同じくらいなんじゃねぇかって。…まぁ、ぶっちゃけお前と一緒に修業して高めあえたらいいなって思っただけだ」
ニカッと笑うと、
「…そうかぁ…ありがとう…俺、気張るな」
刀儀もふわっと微笑んだ。
「おう。俺も、頑張るぜ。でさ、この街…どうやって行くんだ?」
地図貰ったけど、ちんぷんかんぷん。
「…ん〜…何や読みにくい地図やなぁ…えっと…あれ。…これ『Underground map』って書いてへんか!?」
「え…あ、マジだ」
つーことは…
「この、下っつーことか…」
俺は、地面を指差した。
「分かったはいいが、どうやって行くんだ??」
「あぁ、それやったら問題あらへんよ。…確か、地下に通じる通路がこの道の先の森の中にあったはずや」
「や、ややこしいな…」
「俺が分かるし、えぇよ。とりあえず、森に入ったら…多分モンスターとかおるやろうし、そいつら蹴散らしながら進まなあかんから…」
「じゃ、俺蹴散らす係な!!刀儀は通路を探す係!!」
「何やその係制…(汗)」
「つーわけで、早く行くぞ」
俺が走り出そうとすると、
「あっ…ちょい待ちや、この森、スペルスクールの管理下に置かれてへんからとにかく危ないんや。気ぃ引き締めて行かんと…」
「分かってる分かってる!」
「分かってへんて…(泣)」
とりあえず、危ないんだろ。
それだけ分かっとけば、大丈夫大丈夫!!
――……
ボウン
「自然魔法!!フレイムアロー!!」
ボウッヒュンヒュンッ
ボウン
「…化学魔法、アブソーブロッド」
『absorb rod』(アブソーブ ロッド)
吸収の化学魔法
触れた相手の魔力を吸う鞭。
吸収した魔力は自分に還元される。
パシンパシンッ
「グアァアアアアァアア…」
「ギャアアアアッ!!」
「ウ…ガ……」
ドサドサドサッ
「…意外に多いな、モンスター」
「…やから言うたやろ…。危ないて」
はぁ、とため息を吐く刀儀。
「いや、うん。まぁ何とかなるだろ。…で、通路は?」
「…まだわからんなぁ…。やっぱり、感知タイプやないから…精神魔法使える奴がおったら良かったなぁ…」
「だったらリョクだったな」
連れてくんの。
「せやな…けど、リョクさんは忙しいからなぁ…」
はぁ、とため息を吐く刀儀に、俺はきょろきょろと辺りを見回した。
「それらしき何かねぇのかなぁ?」
「地図には、地下入ってからの道筋しか書いてへんし…」
「あ、モンスター達、知らねぇのかな」
長年居んだろ、ここに。
「あほか。モンスター達が知っとったとして、どうやって案内して貰うんや」
「え?ジェスチャー?」
「…………。適当か…」
え、ジェスチャー、よくね?
「…言葉通じひんて」
「あ。…でも、やってみねぇと分かんねえって!!俺前、微妙に話せるモンスターとやりあったことあるし」
とりあえず…くたばりかけてる奴らに片っ端から聞いてくか。
俺は重なって倒れているモンスター達の元へ行き、しゃがんだ。
「おい、お前。地下への入口知ってっか?」
「う………が…ぅ…」
「喋らんねーのかよ」
「げ……が…」
「言葉は通じてんのに…こっちが聞き取れねぇし」
「ぐ…がが…」
「っかしーな…前やりやった奴とは、話せたんだけど…」
あれ。もしかしてこいつら、相当の雑魚?
あ…もしかしてモンスター達にも、地位制ってあんのか…?
「お前達の親玉らへんなら、喋れるか?」
俺の言葉に、こくり、こくりと頷くモンスター達。
なるほど。
じゃーそいつら探して、聞き出すしかねーな。
「おい、刀儀!!親玉探すぞ親玉!!」
「えっ…本気か?契嗣…」
「え、逆に本気じゃなかったらどーすんだよ。方法ねぇし。何もやらないよりマシだろ」
「流石、契嗣やなぁ…」
何だそれ。
つか、その苦笑いは何なんだよ。
俺は刀儀からフンッと顔を逸らして、ズカズカと森を進んだ。
サササ…
ん?
何か…来る?
俺は、耳を澄ませた。
「契嗣っ…早いわ…」
「しっ。刀儀。静かに」
「…?」
ザササササッ
ザサササササササッ
急に辺りが暗くなった。
…頭上か!?
ドスンッ!!
「「うわっ…!!」」
俺達の目の前に、何かが現れた。
砂埃で前が見えねぇ。