「あれは…お前のせいじゃない。人の寿命は、決められないんだ。たとえ、神の子孫だとしても」
…だけど、あれが寿命じゃなかった…!!
俺の………せいなんだよ!!
俯き、無意識にクッと歯に力を入れる。
また、思い出してしまった。
助けられなかった…
助けて貰い過ぎた…
小さな俺も、大きな俺も、結局成長してないんだ…
「契、こっちを向きなさい」
お袋の声。
上を向くと、
パチッ
俺の左頬に、お袋の右手が、少し音を立てるくらいに合わさった。
ビンタとかじゃなく、目を覚ませとでも言いたげに、手が頬に合わさった。
「契のせいじゃないわ。誰のせいでもない。そして今は…契、貴方が未来を託される番よ。しっかりなさい。貴方は…私の子なんだから」
お袋は、涙を浮かべてた。
笑いながら、目には涙が溜まってる。
「お袋……」
俺の掠れた声が、部屋に、しんと響いた。
「わりぃ…たまに、思い出すんだ…」
あの時の、こと。
「…思い出して良いじゃない。忘れなくても良いわ」
忘れられるはず、ねぇだろ…
「契嗣、お前は前を向け。神に囚われるな、過去に囚われるな。いずれ、お前の過去が己の力になるはずだ」
己の…力になる。…か。
「こんな話、しに来たわけじゃねーのにな…。わりぃ、親父、お袋。俺、戻るわ。魔界に」
「…謝る必要はない。行って来い。そして…俺の父さんを呪縛から解き放ってくれ」
「あぁ。やってやる」
じぃちゃんを、キジィームなんかにいいように使われ続けてたまるかよ…!!
「無理しちゃダメよ?貴方は、私の大事な息子なんだから」
「サンキューな、お袋」
心配そうに俺を見つめるお袋を安心させる為に、俺はニカッと笑った。
「あ、それと親父。この人間界に…ここ三年の間入って来た魔人、調べられるか?」
「ん?あぁ…それくらいなら、可能だ」
マジかよ…ダメもとで言ったのに、親父意外にすげぇな…(汗)
「じゃあさ、名前しか分からねーんだけど…俺が探して欲しいのは、魔界から追放された奴らしい、ギルバーンって奴なんだ。名前をアンノウンとやらに変えたりしてるから、意味無いかもしんねーけど…とりあえず、分かることだけ言っとくな」
「ギルバーン…か。分かった。魔人なんだろう?微量でも、魔力を察知出来れば可能だ」
「ん。頼むわ。分かったら、俺に連絡入れてくれ」
「あぁ。だが、連れて行けたら、俺が魔界に連れて行こう」
「マジ?そのほうが助かるわ。よろしくな、親父」
俺の言葉に、親父は一回だけ頷いた。
「じゃあな」
「あぁ」
「えぇ」
俺は振り返らなかった。
二人の声は、振り返らなくていいほどの、強く背中を押してくれるような…そんな声だった。
アードリーが、後ろからぴょこんぴょこんと着いて来ているのを確認し、俺は魔界の門を開いた。
必ず、俺は…戻ってくる。
堅くそう誓った。
キジィームなんかの好きにはさせねぇ。
【刀儀〜実家〜】
ダンッ…パンパンッパシィッ
竹刀のしなる音が響く。
汗が滴り、一秒も油断出来ない緊迫感が続く。
「ハァッ…ハァ…ハッ…」
「ハァ…ハッ…ハハッ刀儀、腕ぇ上げたやないか…」
少し気を抜いたように、父さんが笑い掛けた。
「…ハァ…ハッ…父さんが言うてんなや…腕が全く落ちひんやん…」
「まだまだ、息子に負けてられへんやろ」
ハハッ…流石、父さんや。
俺は、昔から父さんに稽古つけられて来た。
厳しい親で、何度も嫌いになったけどな(笑)
俺が魔界に行くきっかけとなった魔法は…生まれたときから使えた。
昔から、不思議な子として、俺は有名やった。
小さい頃の俺は、子供だからか、怒りと共に力を使った。
俺が怒れば、次の瞬間には…周りの物全てが消えていた。
勿論、無意識で。
父さんと母さんは、薄々分かってたんやと思う。
俺が、普通じゃないって。
だから俺は、周りを傷付けない為に、感情を抑える術を見つけていった…
それでも父さんと母さんは、俺を普通の子として育ててくれた。
嫌いやけど、感謝もしてる。
…今までは、沢山傷付けてばかりやった俺にも、仲間が出来た。
護るべき、大切な仲間が。
俺は、強くならなあかん。
やから…乗り越えな。
自分の力を、高めたい。
契嗣を…友達を…仲間を助けたい。
竹刀を持つ手に、自然と力が入るのが分かった。
「刀儀…お前、変わったなぁ」
フッと、父さんが笑った。
「……そうやろか。でも…良いほうに変わったんなら…嬉しいわ」
俺も、口元を緩めた。
俺が変わったと言われる理由は分かってる。けど、濁してみた。
父さんが、どんな風に返事するか聞きたかったからや。
「えぇ仲間が、出来たんやな」
…!!
…流石、父さんやな。
俺は俯いて、また緩む口元を隠した。
「ほら刀儀。稽古の続きするで。はよせぇえへんと、困るんやろ?」
「…ん。頼むわ、父さん」
グッ
目の前に居る父さんに視線を合わせ、俺は竹刀を持ち直した。
「…行くで」
「おぉ。どっからでもかかってきぃ」
ダダダダダッパシッパシィッ
…契嗣。俺、強ぅなって戻るからな。
END
【アシュレイ】
バンッ
机を勢いよく叩く音が響く。
我は無意識に立ち、長いテーブルの向こうに座るあの人に、声を張り上げていた。
「お父上っ!!何故、ギルが居なくなったときの我の記憶が異なっているのですか!?」
「!!……突然帰って来たと思えば…。な、何を言っている、アシュレイ。何のことだか分からない」
とぼけるつもりか…糞親父…!!
「我は分かっています!!…ギルが…ギルバーンが、本当はイーヴルマナクに連れて行かれたわけじゃないってことを!!」
「…なっ!!わ、私は知らない。ギルバーンという者のことは」
何処までもしらばっくれるつもりか…
「全て、我は知りました。イーヴルマナクが悪者ではないことも、ギルが居なくなった本当の原因も…」
「…私には関係の無い話だ」
関係無いはずが無い。
お父上は、あのミモザ家の手足となり働く貴族。
関係無いはず、無いんだ。
「子に背を向けるのですか、お父上。逃げるのですか…潰されると怯えるのですか…それが、お父上の威厳ですか」
テーブルに敷いてあるシワの無いクロスに、自分の手がシワをつくっていくのが分かる。
「逃げる?潰される?怯える?…父の…威厳?ふざけるな!!お前に何が分かる!!私は、このカムフィン家を護る為に生まれた!!宿命を背負う苦しみが、お前に分かるはずが無い!!」
息も荒々しく、お父上が怒り狂うように言葉を吐き出した。