「いつもの、ケーくんらしくなかったよね。あたしも、心配」
ミルハもらしくなく、眉間にシワを寄せている。
「今、話せないだけですよ、きっと。私達は待てば良いんです。ケイシが言えるときまで。話したくなるときまで。踏み込むのも良いですが、私は…見守りたいと思います」
大人な考え方をするリョクに、皆が皆頷いた。
だけど、それぞれ契嗣に思いを馳せていた。
「(………俺に、出来ることは…まず、キジィームを倒すことや。そして…契嗣と腹割って話してみよう)」
刀儀は力強く前を見た。
「(あたしは、道具系で火を操る修行しないと。ケーくんの役に立つには、これくらいしか出来ない。でも…あの言葉は…)」
ミルハは契嗣がアシュレイに言った言葉達を思い出していた。
「(マル、ケイシさんに辛い悼みがあるなら分かりたいです。マルに出来ること…キジィーム様のことを、敵と見なすこと…です…!!)」
実は昔、キジィームに世話になったことがあるマリスは、この計画にイマイチのれずにいた。
だが、決心がついたようだ。
「(我は…変えられる闇を捨てない。ギルを、見つけ出す…)」
アシュレイは、契嗣から言われたことを思い出し、ギルバーンの顔を思い浮かべていた。
「(ボクも…ケイシには、笑ってて欲しい。きっとケイシが、これから先の未来に必要な人だから。ボクは…家に歯向かうよ。覚悟は出来てる)」
ライラはチラッとリョクのほうを見ると、リョクは真剣な目で頷いた。
思っていることは、同じだから。
「「「「「「自分の、出来ることを」」」」」」
皆はそう言い放ち、頷き合った。
そして個々に部屋を出た。
皆、思いはひとつ。
キジィームを倒す。
契嗣の祖父を救い出す。
…過去に囚われているらしい契嗣の、役に立ちたい。
皆それぞれに、自分の成すべきことに向かって、歩き出した。
END
ガラガラガラッ
「ただいまー…ってぇ…またかよ…」
「あら契、おかえりなさい♪」
「おぉ契嗣、元気だったんだな」
俺の帰りに、何事もなかったようにケロッとしてる二人。
「だから…営みしてんじゃねぇよ…俺、下要らねぇよ……」
我が家に帰って来たのに、すげぇ疲れたんだけど…(汗)
「あら、ただイチャついてるだけじゃない」
「ん?ただイチャついているだけだろう?」
…そのイチャつきの度合いが問題なんだっつの!!
はぁー…まぁいいや。
「あら?そのカラフルな動物さんは何かしら?」
お袋が、俺の肩に掴まっているアードリーに気付いた。
「ブキュッ」
「随分と不細工な鳴き声だな」
…親父、やっぱ俺、あんたの息子だよ(笑)
考えることが一緒だ…
「ギュブッ!!」
「まぁまぁ…でも、可愛らしいウサギさんだわ〜♪」
何故かお袋が気に入った(笑)
お袋がアードリーを抱き抱えると、
「キュピィッ♪」
いつも通り、可愛くなった。
「「か…可愛くなった…(汗)」」
おいおい(笑)
つーか。
「なぁ親父。じぃちゃんって…魔界の支配者的存在の、キジィームに取り込まれたって本当か?」
「「……………」」
あぁ、本当か、やっぱ。
親父とお袋の苦い顔に、確信した。
まぁ…本当なのは当たり前だな。
キジィームの息子の、イーヴルマナクに聞いたんだから。
「誰から……聞いたんだ」
親父は鋭い視線を送る。
「キジィームから、捨てられた息子からだ」
「!!…………あいつ…自分の息子にまでそんなことを………!!」
親父は、悔しそうに唇を噛み締めた。
「俺のじぃちゃんも、息子のイーヴルマナクも…キジィームに苦しめられてる…」
「…だが、それも神家家の宿命だ」
「?…どういう意味だ?」
じぃちゃんがキジィームに取り込まれるのが、神家家の宿命?
「神を継ぐということは、世を継ぐということだ。つまり、未来を託された者なんだ。俺達は」
「だから何だよ。神の子孫だろ?んなこと当たり前じゃねーか」
「だから、命を懸けてでも、未来を護らねばならない」
命を…懸けて…。じゃあ、じぃちゃんは…キジィームから未来を救う為に、犠牲にならざるをえなかったってことか…?
「父さんは、未来が闇に飲み込まれるのを少しでも延ばす為に、自らキジィームに取り込まれた」
クソッ…それが…
「神を継ぐ者としての、勤めだ」
神を継ぐ者は、世の為に犠牲にならなければならない。
それが、神を継ぐ者としての宿命、勤め。
だけど…
「じぃちゃんがキジィームに取り込まれても、未来が闇に飲み込まれることは…決まってたのか?」
これだけは気になる。
親父は"未来が闇に飲み込まれるのを少しでも延ばす"と言った。
つーことは、未来はキジィームに支配されるってことなのか!?
「決まっていた。既に。キジィームは…それだけ凶悪で、残忍で…最強に強い、魔界の支配者だ」
ゴクッ
俺は無意識に、喉を鳴らした。
「じぃちゃんは、そうなることを分かっていて、キジィームに取り込まれた…。それって、じぃちゃんが命懸ける意味、あったのか?だって…いずれこうなることだったんだろ?だったら…だったら…」
「契嗣、お前の為だ」
「え………」
俺の、為…?
「お前が過ごす未来を、少しの間だけでも、平和にしてやりたかったんだ。そして…いずれ神を継ぐお前に、キジィームを倒して貰いたかった…」
少しでも、平和に…。俺の…為に。
じぃちゃんの…思い。
「俺は…キジィームを倒すと決めてる」
ボソッと言った俺に、
「分かっているさ、お前のことくらい。親父だからな」
手を伸ばし、頭をくしゃくしゃと撫で回してきた親父。
「わりぃな、親父。親父の親父、俺の手で死なせるかもしれねぇ。また…俺が、人を死なせるんだ…」
自分の眉間に、シワが寄ったのが分かった。
「あれは…お前のせいじゃない。人の寿命は、決められないんだ。たとえ、神の子孫だとしても」
…だけど、あれが寿命じゃなかった…!!
俺の………せいなんだよ!!
俯き、無意識にクッと歯に力を入れる。
また、思い出してしまった。
助けられなかった…
助けて貰い過ぎた…
小さな俺も、大きな俺も、結局成長してないんだ…
「契、こっちを向きなさい」
お袋の声。
上を向くと、
パチッ
俺の左頬に、お袋の右手が、少し音を立てるくらいに合わさった。
ビンタとかじゃなく、目を覚ませとでも言いたげに、手が頬に合わさった。
「契のせいじゃないわ。誰のせいでもない。そして今は…契、貴方が未来を託される番よ。しっかりなさい。貴方は…私の子なんだから」
お袋は、涙を浮かべてた。
笑いながら、目には涙が溜まってる。
「お袋……」
俺の掠れた声が、部屋に、しんと響いた。