ある日。


学校から帰ってくると、母は留守で、そのかわり、平日に、父が一人で家にいた。


そして昼過ぎに、知らない若い女の人が、訪ねてきた。


父と同じ会社名のロゴに、事務員の制服姿だった。



その女の人は、あたしに時計とクレヨンセット。箱入りのケーキをくれた。



『晴美ちゃん。ねぇ、もし…お姉さんが、晴美ちゃんのママになったら、どうする?』


って、いきなり聞いてきた。



あたしは、首を横に傾げて「なんで?」と答えた。



『お姉さん。晴美ちゃんのママになりたいな。そしたら、晴美ちゃんと沢山遊んであげる。ダメかな? 今のママより、うんと可愛がってあげる』



「ううん。あたしには、お母さんが、もういるから、いいです。お姉さんは、綺麗でいいけど、あたしは耳が悪くても、今のお母さんが好きだから、ごめんなさい」



そう答えた。



『晴美。外で遊んでこい』



父に言われて、あたしは、また父から殴られたくない一心で、急いで公園まで走った。



ママになりたい。ママになったら、どうする?



あのお姉さんは、変なことをあたしに聞くんだなって思いながら。