「あれ?ここって…」
「うん。俺たちが初めて出会った場所だよ。」
そう、杏里がタイムスリップして服を着替えるために神社の空き小屋を使い、
浪士達に絡まれた場所だった。
「あの時はいきなり斬りかかってくるんだもんなぁ。」
「杏里だって俺の頬にかすり傷つけてくれたじゃない。」
そうだったけ?と首をかしげながらむき出しになっている木の根っこに腰をかける。
杏里が江戸時代にやってきてたったの五日しかたっていなかった。
その間に色々なことに遭遇しすぎた。
色々なことがありすぎて思考回路がうまく働かない。
気づけば二人は何時間も話していた。
「なんか時間を超えてきたって実感がないよ。
まだ来て本当は五日しか経ってないのにね。」
ふわっと風が二人を駆け抜けていった。
杏里の髪が風に靡(なび)く。
町の方からは祇園囃子や人の笑い声が聞こえてくる。
「そっか、今日は宵山だっけ。もう何が何だかわかんないや。」
笑う杏里に沖田はそっと抱きしめる。
「ちょ、どうしたの?また体調悪化して…。」
「違う。ちょっとだけ、このままでいさせて。」
まるでこの後別れが来るみたいに。
ぎゅっと力強く自分自身を安心させるかのように抱きしめていた。
しばらくこの体制が続くので、どうしたものかと考える。
「ほんとどうしたのさ?」
子供みたいと杏里は思った。
「何でもない。さ、帰ろうか。」
スッと手を差し伸べる沖田。
それにつかまり立ち上がる。