* * *

杏里の悲鳴にも似た声聞きつけ近藤が駆け付ける。


「どうしたんだねっ!…総司!」
「グスッ…。近藤さっ…!総司が!出る前から顔色悪かったのに、無理して、私を庇って!」


いつも強気で、男にも引けを取らない性格の持ち主の杏里が
ここまで取り乱すとは想像もつかなかっただろう。
その姿は恋をしている女の子そのものだった。
それだけ沖田の事が大切だったんだろう。
今日の出来事の結末を知っている杏里にとってこれほど辛いことはない。
教えることもできない、ただ時代の流れに身を任せるしかなかった。


「とりあえず落ち着きなさい。気を失っているだけだ。これくらいで死ぬやつに育てた覚えはないぞ。」


なんとか杏里を落ち着かせようと言葉をかける近藤。


「すいません…。取り乱してしまって…。」


杏里が落ち着きを取り戻した頃には全て鎮圧されていた。
いつの間にか土方隊も到着していた。
下へ降りると土方は遅すぎる援軍の会津藩の藩士たちと睨みあっていた。
いや、正確には土方の纏うオーラに藩士たちは気おされていた。
申請したはずの援軍は刻限には来ず、捜索はハズレくじ、
近藤と共に闘えなかった苛立ちを全てぶつけていた。
藩士たちはしどろもどろになり怯えていた。


「そこまでにしとけ、歳。失礼だぞ。」
「しかしよぉ近藤さん。」


近藤の姿が見えたときの藩士たちの顔は仏を拝むような心境だった。
近藤の身体は返り血にまみれていた。それだけでどれだけ悲惨だったかわかる。


「援軍誠にありがたいが浪士の確認をここでします故、
少しの間外に出ていただけますかな?」
「しかし、近藤殿!」


横で見ていた杏里がスッと藩士たちの前にでた。


「お引き取り願おうか、会津藩士の皆様。我々の手で全て事は片付きました。」
「き、貴様…!」

ブチッ…。

「その人数を押し込まれると邪魔だって言ってんだよ…。
手柄を横取りしようってのは見えてんだよ!臆病者が!」


相手にならない藩士たち相手に殺気を放つ杏里。


「そこまでにしとけ、杏里。」
「ってぇことだ。まだ文句のある奴は前に出てこい。」


この一言に彼らはぶつぶつ言いながら外へと出て行った。