「杏里…。」


そっと杏里の顔に己の顔を近づける。


「ちょ、人いるからっ…むぎゃっ!」
「あはははっ!なんて声あげてんの。」


キスすると見せかけ沖田は杏里の鼻を摘まんだのだ。
引っかかった本人はむすっと頬を膨らませ、引っかけた本人は大笑いしている。


「杏里って結構鈍いっていうか隙(すき)ありすぎ。よく土方さんに勝てたもんだよ。」
「うるさいっ!なんだよっ、人が一生一代の告白したのに!」


赤面しながら沖田へ殴りかかる。
よけながら二人して追いかけっこ。
気づけば人があまりいないとこまで来ていた。



「放せよ…。総司の前でなら素直に、女の子らしくなってもいいかなって、思ったのに。」


ぽつり、ぽつりと漏らす言葉に沖田は黙って耳を傾ける。


「なのに何でからかうの?好きって言ったのは嘘?わかんないよっ…。」


ポタリ。



杏里の目から涙がこぼれた。
ぐいっと掴んでいた杏里の腕を引き寄せ唇を重ねた。


「嘘じゃない。好きだよ、杏里。」


この数日間で見てきた沖田の笑顔とはまた違う、優しい笑顔だった。


「ずっと俺の傍にいて?」
「でも私はここの時代の人間じゃない。いつかは別れる時が来る。」
「構わない。生まれ変わって絶対に会いに行く。
どれだけ時間がかかっても必ず見つけ出すから。」
「バカ…。」


ぎゅっと抱きつくと優しく抱き返す。


「杏里…?」
「ス―…。」
「寝てるしっ!」


安心しきった顔で眠る杏里に沖田は頭をかいた。


「はぁ…。おぶって帰るか。ったく無防備すぎるって。」


苦笑しながら杏里をおんぶして屯所へと帰っていった。




池田屋事件まであと二日。