元治元年六月二日。
与えられた部屋の襖(ふすま)から光が差し込む。
差し込んできた光で目を覚ました杏里は、
まだ覚醒しきれていない脳を働かせて
女中からもらった着物を着て顔を洗うために廊下へ出た。
んー…なんかしっくりこない。
なんでだろ…?
ノロノロと廊下を歩いていると藤堂が走ってきた。
「おはようさん。よく眠れた?」
にかっと笑う。しかし杏里はぼうっとしたままつっ立っていた。
「おーい、杏里さん?起きてる?」
「…あ、なんだ平助か。おはよう。」
「気づくの遅っ。」
藤堂の突っ込みなど無視して、女子なら自重しろよ。
と言いたいぐらいの大きな欠伸を一つ漏らし藤堂の頭をポンポンと撫でた。
「ん。よく眠れたよ。」
「ならよかった。ってかやっぱり女物の着物着てたら女の子にしか見えないんだよね。」
「え…??」
じっと杏里が身につけている着物を見て呟いた。
ん…?女物?女物って言った?
今そう言ったよな?
「またかよ!なんで気づかなかったんだ私はっ!!」
「知らないよっ!!ってか気付こうよ!!」
そう、昨日も杏里は女物の着物を着ていた。
女中が杏里が女の子だからと言って持ってきたのであった。
「平助、女中さんのとこまで行くぞ!」
半ば強引に平助に案内させてなんとか男物の着物に着替えることができた。