「おい、てめぇさっきの威勢はどこいったよ。」
背後から声をかける土方に杏里は振り向きもしない。
きっと気配を感じ取っていたのだろう。
杏里はもう一度月を見上げる。
「お前、何隠してる。」
「…っ!」
「今朝来た時から引っかかってたんだよ。」
「それ、は…。」
今一番聞かれたくないことを突かれ、言葉を濁(にご)す。
「答えろ。答えねぇんだったらここでお前を斬る。」
スッと刀を抜き杏里へ向ける。
杏里は微動だにもせず空を見上げたままだ。
このまま答えなかったらマジで斬られるな。
先の事がわかってるのに教えられない…。
教えたら歴史がかわる…。
それは嫌だ…。
「黙ってねぇで何か言えよ。」
答えない杏里に土方は言葉にイラつきを含ませる。
うつむいたままピクリとも動かない杏里。
沈黙がしばらく続いた。
時間だけが過ぎてゆく。
そして杏里は決心する。
「みんなを集めてくれませんか?話すよ、全部。」
真剣な眼差しで土方を見据えるが、どこか悲しげな顔をしていた。
「わかった。」
杏里へと向けていた刀を鞘(さや)に踵(きびす)を返して
他の隊士達を呼びに行った。
話すしかない。
この先に起こる事は伏せて伝えたらいいさ…。
まぁ自己紹介もかねて話せばいいか。
少し落ち着いたのか杏里の思考がいつも通りになっていた。
「杏里ーっ!!早く来いっ!」
奥で土方の怒鳴り声が飛ぶ。
あ、忘れてた。ったくうるせぇっての。
「今行きますーっ!」
くすりと笑って声のする方へ向かった。