* * *
その夜、杏里は土方の部屋を訪ねた。
本当の事を伝えるために。
追い出されっかな……
第一信じてもらえねぇよな。ってか今何年何月何日だ。
「土方さん、ちょっといいですか…?」
「入れ。」
スッと障子(しょうじ)が開かれる。
「どうした?なんか用か?」
机の書類とにらめっこしていた土方が顔を上げる。
「あ、いやなんでもないんですけど。あ、仕事中…。」
「かまわねぇさ。ちょうど一区切りついたとこだ。」
「そうですか。ところで、今って何年何月何日でしたっけ。」
単刀直入に聞く杏里に土方は苦笑いしつつ答える。
「何年何月ってお前、今は元治元年六月一日だろう。」
「え…?」
「杏里?」
「あ、いや。ありがとう、ございました…!」
「ちょ、おい!」
じゃぁ。と言って土方の部屋から走り去った。
自分のやって来た日付が池田屋事件の数日前。
綺麗な満月で雲一つない晴れた夜空。
杏里は縁側に座り込んで空を見上げた。
月は杏里だけを照らすかのように光が降り注ぐ。
本当に過去へ来たんだ…。
この先に起こることはわかってる。
でも教えられないんだよな…。
教えたら歴史が変わっちまう。
縁側に座ってどれだけ時間がたっただろうか。
思わずため息が漏れる。