「ちょっとあんた、サラの気持ちも考えてやりなさいよ。いくらなんでも無神経すぎるわ」

1人の主婦がガランに近づき、そう言った。
遠巻きに村人たちが頷いている。

「あぁ?俺はサラを慰めてるんだろうが。だいたい根も葉もない嘘なんかつくルカが悪いんだろ。サラを苦しめた挙句、こんな辛い表情をさせるあいつが!」

その言葉に村人たちの声が変わった。
ガランの悪口からルカの嘘に対する言葉に。

「確かにルカはしょうもない嘘をついていたけど、あたしらにとっては些細なものだったんだよ!?」

主婦はそう言ったが、周りの言葉は疑問や非難の色に染まっていく。
そして誰かが言った。

「結局、あんな嘘をついたルカが悪いってことか…」

サラの握り締めていた拳から血が滲み、雫となって落ちた。
やっぱりそれが皆の本音?
ルカは死んで当然だって?
……そんなの、間違ってる。

「…ない」

「え?」

サラの呟きに主婦が気付き、問い返す。

「ルカは悪くない!あの嘘は私のためだったんだもの!私を罰するべきだったのよ!!」

激しい語気と見たこともないサラの怒りに、その場にいた全員が凍りついた。

「な、何を言ってるんだサラ。何であんな嘘がお前のためになるんだ?」

しどろもどろになりながらガランが問うが、サラの耳には届いていなかった。
サラの様子に驚いていた主婦が小さく悲鳴を上げる。
包帯を巻いていなかった右腕が急激に毛深くなり、爪が恐ろしく長い鋭利なものに変わっていたのだ。

「サ、サラ…?」
 
その様子に他の村人とガランが気付いた時には、サラに巻かれていた包帯は破られ、四肢はほぼ狼のそれと同じものになっていた。