「あ~……かっこわる」

医務室に運びこまれた佐久間主任は、ベッドの上で手をかざし目を隠す。

「あんなところで立ち止まって話なんかするからいけないんです」

トレーディング室から取って来た佐久間主任の荷物をサイドテーブルに置きながら、私は笑いを噛み殺す。

「もとはと言えば、杉原君がっ!」

佐久間主任がガバッとベッドから飛び起きる。

「えっ?」

「……いや。なんでもない」

私と目が合うと、佐久間主任はまたシーツを引き寄せ、私に背を向け横になる。

シーンと静まり返る部屋に2人きりでいると、少し気まずい感じがする。

「じゃ、荷物はここに置いておきますからお大事に」

「待てよ。俺も帰る」

「まだ寝てた方が……」

「もう十分寝たよ」

佐久間主任は、ベッドから降り、Yシャツのボタンを閉めながら、テーブルの上のネクタイに手を伸ばす。

「でも……」

「それに昼食に弁当をゴチになったから、晩飯でもおごるよ」

晩飯!

しかもオゴリ!!

今夜はお茶漬けにするつもりだったのに、こりゃ、ラッキ!

「ぜっ……」

是非、ご一緒に!と言い掛けて、今日の課長の言葉を思い出す。

『俺以外の男に心を許すな。特に、佐久間。あいつに気を許すな』

そうだった。

そうだよね。

それに、今日、トレーディング室では佐久間主任に手を握られ、微妙に怪しい雰囲気になって冷や汗を掻いたりもしたじゃない?

危ない危ない。

危うく食欲に負けるところだった。


「どうした?」


上着をはおりながら、佐久間主任が私の方へと歩み寄る。

私は半歩後ずさりながら、両手で距離がそれ以上詰まらないよう主任に待ったを掛ける。


「ゼイタクは敵!なんて言うじゃないですか。それに、私、今、ダイエットしてて」

「ふ~ん。昼間はバクバク食べてたみたいだけど?」

げっ。

さすが、『佐渡島のサド鬼』佐久間!

素晴らしいリサーチ力だ。

なんて、感心してる場合じゃない。

タラリタラリと汗が額を伝う。