「か……カチョー……?」

なんだろう。

後ろから抱き締められると顔が見えない分、ドキドキが20%増しな気がする。

やばいって。

このままじゃ、心臓が持たなくて、今にも跳び出てしまいそうだよ。

「課長。忘れ物、捜さないと!もう時間がありませんよ」

課長の腕時計の電子音が次第に高まって行く。

「俺以外の男に心を許すな」

「へっ?」

「特に、佐久間。あいつに気を許すな」

うーわー!

課長。

今、どんな顔してそーゆーこと、言ってますか?

顔が見たい。

見てみたいぞぉぉぉ~!!!


でも、照れ臭い。

私は戸惑いながらも、抱き締めてくれる課長の腕に顔を埋める。

私の頭に唇を寄せながら課長が甘えてくれているような、と言うか、拗ねてもいるようなそんな感じがしてちょっと嬉しい。


「あの、もしかして、もしかすると、それは嫉妬とか、そういう感じでおっしゃってますでしょうか?」

「嫉妬じゃないさ」


なんじゃと!

可愛げなっっ!!

やっぱ、課長は可愛くない。

むかっとする私の耳元で課長が囁く。


「恋人として当然の権利の主張だ」


恋人。

そう甘く響く課長の低い声に、それだけで膝がガクンと折れる。


「おっと。大丈夫か」


課長にふにゃふにゃの体を支えられて、辛うじて立つ。

大丈夫じゃないよ。

ちょっとにらみながら振り向く私に、課長からのキスが落ちる。


「8月だ。NYで待ってる。必ず来い」


私の唇を奪いながら囁くと、課長は私を強く抱きしめた腕を解き、駆け足で去って行った。