「奥田取締役、佐久間です」

ドアの外から聞える佐久間主任の声にドドッと汗が流れる。

佐久間主任がなぜここに?

課長と私は顔を見合わせる。

「いらっしゃいますか?」

ノックと共に再び佐久間主任の声。

佐久間主任が部屋に入って来ちゃうのか?!


はっ!!


私は乱れた胸元、露わになった膝に改めて赤面する。

課長が髪を掻き上げ、「待て。今、行く」と反射的に言葉を返す。


や、やばいよ。

私はソファから転げ落ちると、オーク調の立派な課長のデスクの陰に瞬間移動する。

「杉原?」

課長がネクタイを整えながら、体を折って、机の下の私を覗き込む。

「しーーーっ!」

人差し指を立てて、身をすくめる。

課長はふっとほほ笑むと、「いいから出て来なさい」と手を差し出す。



だめだよ。



この2人っきりの状況……。

今や業務上、全く接点のない私たちがここにいるのを説明なんかできる訳ない。

ましてやうちは社内恋愛ご法度のイマドキ珍しいくらい恋愛には厳しい会社。

どんな懲罰を受けるか……

課長に迷惑を掛けるか分からないよ。


「私、ここでいいです~」

「何を言ってるんだ。出なさい」


課長が私の腕を掴んだその時、課長の腕時計がピピピピッと電子音を発する。

課長がその音を止めると、観念したように小さくため息を吐くと扉の方へと歩いて行く。