「君は料理だけは、本当に鬼のように天才だな」


佐久間主任が、フライドチキンを頬張りながらおにぎりにも手を伸ばす。


「『料理だけは』なんて失礼です。食べたくないんですか?」


むっとなりながら、お弁当箱を佐久間主任の手からひったくる。


「ああ!ちょっと!大人気ないよ」


本当にお腹がすいていたらしい佐久間主任が、私の手からお弁当を奪い返す。


「でも、マジ、うまいよ、これ」


佐久間主任が満面の笑顔で、牛肉のパイ包みをポイッと口に放り入れる。


あ~あ。
この笑顔、課長だったら良かったのに……

シュンとしながら、チビグラタンを箸でつつく。


「でもさ、この弁当すっげー大きいよな。もしかして、男のために作ったとか?」


ぎくっ!

やっぱり油断できない佐久間主任。

課長譲りの観察眼は恐るべきものがある。


「別に。今日は一人で食べてみようかなぁと思って」

「でかすぎだろ。それにその箸、男物っぽいんだけど」

げげ。

佐久間主任がじっとガン見してる箸は、課長のマイ箸用にとわざわざ買って来た箸だ。


やばい。

うちの会社は割と考えが古くて、社内恋愛ご法度。

社内結婚とかすると、大体、女性が辞めさせられてしまうんだ!


けっ、結婚とかは、しないんだけど!

って、何、考えちゃってるの、私ってば。


「そんな人、いませんよ!いません、いません!!
深読みし過ぎです、佐久間主任。
それに私、結構、大食いなんですから!!」


動揺しつつ、鳥まんじゅうを大口を開けてガブリとかじる私を横目に佐久間主任がボソリと呟く。


「あ、そう。じゃ、君、まだ処女なんだ」