暗闇の中、瞳を閉じて、日本を離れる前の日に、たった一度だけ抱き締められた課長の広くて温かい腕の中を思い出す。



ああ、課長……


私……こんな風に課長に……




グ~キュルルルル~♪

グルグルル~キュ~♪



課長を抱き締めようとした両腕がスカッと空を切り、現実に引き戻される。

恥ずかしさに顔が火照る。



ああ……

課長。

なんか、今のでロマンチックが台無しです。



「腹の虫が大暴走だな」


くっ!

しかも、しっかりと佐久間主任は聞き取っちゃったらしいです。


穴がなくても、自ら掘って入りたいくらい恥ずかしいです。


「でもまぁ、仕方ないよな。そろそろ昼時かもな」


昼時。

と言うことは、少なくとも5時間位はこの部屋に閉じ込められていることになるの?

でも、時間の感覚がないから、そう断言できる自信がない。

おずおずと佐久間主任に質問を投げかける。

「そんなに長い時間、ここにいるんでしょうか?」

「ああ、多分な。確かに、腹が減ってきたな」

「お腹……」

あっ!

そう言えば、私、バッグを持って来てたんだ!


私は勢い良く立ち上がる。


バッグの中には、お弁当が……

課長に作って来たお弁当が、ある。

でも

でも

あれは、課長に食べてもらいたくて作ったお弁当なんだよ?!


「どうした?」

「あ…あの……」

佐久間主任の訝しげな問い掛けに、答えられないまま、私はその場に固まってしまう。