会社に到着し、トレーディング室の部屋の前に立つ。

息をすぅっと思い切り吸い込むと、勢い良くドアを開ける。


「おはようございます!」

「おはよう。今日は早いね、杉原君。朝の当番?」

「はい。だけど、佐久間主任っていつもお早いんですね」


私の指導をしてくれている佐久間さんはこの4月に主任に昇格した。

毎朝、近くのスタバでコーヒーを買うらしく、私が来る頃にはいつもコーヒーのいい匂いが部屋中に漂っている。

佐久間主任に1Fの集配室から持って来た金融新聞を渡すと、残りの新聞の束と郵便物を抱えて、各ブースに配って回る。


「手伝おうか」


背後に佐久間主任の気配を感じ、慌てて振り返る。

「いえ!イイです!いつも手伝ってもらって、悪いですから」

「いいよ。2人で配った方が早い」

「でも……」

「ほら、チャッチャと配るぞ」

「すみません」

佐久間主任は私から新聞を取ると、3人掛けのブースのどこの誰に何を配るのかを的確に判断しながら、素早いスピードで新聞を配り終えてしまう。


やっぱ、すごい。

こんな簡単な雑務でも無駄がない。

さすが、課長の愛弟子だけあるぞ!

って、感心してる場合じゃない。


私も慌てて、残りの新聞を配って歩く。


「あっ、そうだ、杉原君。このインベントリー……」

「はい?い、いったーーーい!」

「どうした?!大丈夫か?」

振り返りざまにブースの角に腰を思い切り打ちつけた私は、思わずその場にうずくまってしまう。