「課長、ありが……」

顔を挙げようとしたところで、課長に抱きすくめられる。


力強い腕。

仄かに香るオーデコロンの香り。

首筋に掛かる課長の前髪。


ウゲゲーーーーー!

ど、どぉしよぉぉぉぉ!!


これはっ!

これはっ、スーパー初心者の私には、さすがに難易度の高すぎる恋愛モードって感じです!


やーーーん!
どうしよぉぉぉぉぉぉぉ~。

心臓がズンドコダンスを踊りながら、全身を疾走しちゃってます!


予想外の課長のこの行動は、今までの課長との仕事中には無かったことで、対応不可能なまま体が硬直してしまう。


そんなパニック最中の私の耳に、課長の声が届く。


「明日、朝一の便でNYに行く」


課長の言葉がまるで死刑宣告みたいに、私の心臓のズンドコダンスにブスリと突き刺さる。


「行ったら恐らくほとんど行ったきりになると思う。すまん」


行ったっきり……。

行ったっきりって、どれくらい?


噂に聞いた通り5年とか……それとも、もっと??

せっかく両想いになれたのに?


「淋しくなるな」


課長の私を抱き締める腕がきゅっと強くなる。


「課長……」


私も課長の腕を強く抱き締め返す。


ドーンと地面を揺るがすような花火の音が空いっぱいに鳴り響き、辺りからは
「「「わぁっ!!!」」」
と歓声が上がる。


燃え尽きた花火が、パラパラと音を立て、煌めきながら地上へと舞い降りる。


そんな花火があまりにも


美しくて

はかなくて


私はただずっと課長の腕の中で涙をこらえていた。