空港内を猛ダッシュしながら泣きそうになる。
広すぎるってばよ、成田空港!
出発までもう30分を切ってる。
課長は既に搭乗手続きをしてしまってるかもしれない。
やっぱり、会えないかもしれない。
着物の裾をギュッとつかみ、唇を噛む。
それでも……
諦めきれない想いがあるなんて、私、知らなかった。
課長に出会うまで知らなかったんだ。
走りながら、私は課長に初めて会った時のことを思い出していた。
「今年入社した杉原由紀君だ。奥田君、しっかり面倒見てくれよ」
本部長の紹介に深々とお辞儀をした顔を上げるとそこにブスっとした顔の課長がいた。
『容姿端麗(ようしたんれい)』とか『眉目秀麗(びもくしゅうれい)』とか、今まで使ったことの無いような4字熟語が初めて頭の中でひらがなで現れた。
こんなに背が高くてきれいな男の人が、この世に存在して息をしているなんて信じられなかった。
「初めまして。君の上司になる奥田巧です。よろしく」
そして、その時、後に『女は奥田課長の声を聞いただけで妊娠する』と先輩達から聞いた伝説の低音の美声に腰を抜かした。
「どうした?君、大丈夫か?」
課長は私の手を引き、起こしてくれたんだっけ。
ドキドキした。
愛想の無いその顔に……。
もしかしたら、私はこのときからもう恋に落ちてしまっていたのかもしれない。
課長。
会いたいです。
ぶすっとした顔が見たいです。
嫌味を言う声が聞きたいです。
「バカヤロー」が聞きたいです。
……なんか、いいとこ、ちっともないような気がして来たけど……
でも、私、課長に会いたいです。
NY行きのチェックインカウンターまで来ると、私は両足を踏ん張って、仁王立ちになる。
「奥田カチョーーーーー!!そこにいますか?
聞えますか?!聞こえたら……聞こえたら……『バカヤロー』でもいいから……それでもいいから……」
あ。
やばい。
なんか、涙が出て来た。
声が……
声が……
出ない。
その時。
「杉原!!」
聞きなれた低音の美声が私の名前を呼んだんだ。
広すぎるってばよ、成田空港!
出発までもう30分を切ってる。
課長は既に搭乗手続きをしてしまってるかもしれない。
やっぱり、会えないかもしれない。
着物の裾をギュッとつかみ、唇を噛む。
それでも……
諦めきれない想いがあるなんて、私、知らなかった。
課長に出会うまで知らなかったんだ。
走りながら、私は課長に初めて会った時のことを思い出していた。
「今年入社した杉原由紀君だ。奥田君、しっかり面倒見てくれよ」
本部長の紹介に深々とお辞儀をした顔を上げるとそこにブスっとした顔の課長がいた。
『容姿端麗(ようしたんれい)』とか『眉目秀麗(びもくしゅうれい)』とか、今まで使ったことの無いような4字熟語が初めて頭の中でひらがなで現れた。
こんなに背が高くてきれいな男の人が、この世に存在して息をしているなんて信じられなかった。
「初めまして。君の上司になる奥田巧です。よろしく」
そして、その時、後に『女は奥田課長の声を聞いただけで妊娠する』と先輩達から聞いた伝説の低音の美声に腰を抜かした。
「どうした?君、大丈夫か?」
課長は私の手を引き、起こしてくれたんだっけ。
ドキドキした。
愛想の無いその顔に……。
もしかしたら、私はこのときからもう恋に落ちてしまっていたのかもしれない。
課長。
会いたいです。
ぶすっとした顔が見たいです。
嫌味を言う声が聞きたいです。
「バカヤロー」が聞きたいです。
……なんか、いいとこ、ちっともないような気がして来たけど……
でも、私、課長に会いたいです。
NY行きのチェックインカウンターまで来ると、私は両足を踏ん張って、仁王立ちになる。
「奥田カチョーーーーー!!そこにいますか?
聞えますか?!聞こえたら……聞こえたら……『バカヤロー』でもいいから……それでもいいから……」
あ。
やばい。
なんか、涙が出て来た。
声が……
声が……
出ない。
その時。
「杉原!!」
聞きなれた低音の美声が私の名前を呼んだんだ。