課長は異動発表の翌日から人事部付となり、トレーディングルームに来ることはなかった。

そして、とうとう課長に1度も会えることがないままに、運命の週末がやって来てしまう。

「由紀!!早よう来んね!!」

お見合い当日。

私のお見合いに合わせて、両親、じぃちゃん、ばぁちゃん、兄ちゃん、姉ちゃん、妹、弟、いとこ、はとこ、親戚、隣近所のおじさんやおばさん達がバスを貸し切って東京に上京。


なんか、村を上げての一大イベントになりつつある私のお見合い。


私は朝6時には美容室に入り、着物の着付け、メイク、ヘアスタイリングなどなど……


とにかく、「金に糸目は付けんけん!この見合い、何が何でもきばりんしゃい!!」と言うかぁちゃんの言うとおり金に糸目を付けないこの美容室で一番高価で一番華やかな着物を着せてもらう。


「すっご……!私じゃないみたい」


鏡に映る自分の姿、まんざらでもないぞ。

課長にも、一度でいいからこういう姿、見せたかったな……。


はっ(=_=)

何、思っちゃってんの、私。

今日は、イケメン&お金持ち様とお見合いなんだぞ!

「もう!いい加減、早よしんしゃい!!」

かぁちゃんに首根っこを引っ掴まれて、お見合いが行われるホテル内の料亭に連行される。


「かぁちゃん!そがん、走らんで!こっちは草履やけんさ!!」

「なんば言いよっとね、由紀!もう2分も遅刻しとっとばい!!」

「2分ぐらいよかやんね」

「いかん!代議士さんの息子ば待たしたなんて、末代までの恥たい!!」

「すっ転んだら、それこそお嫁に行けんたいね!」

「今日、きばればとっとと嫁に行けるさ」

ふむ。

……それも、そうね。

私は辺りをキョロキョロ見回し、着物の裾をたくし上げると大股で一歩を踏み出す。


だけど……


「杉原!?」


私を呼び止める聞き覚えのある低音の美声に、思わずピタッと立ち止まる。