「な、なんでもないです!」

「そうか?」

「そうです!」

コーヒーを流し込み、おにぎりにかぶりつくと、お味噌汁をすすり、パンをかじる。


ふむ。

美味しいけど、なんか、斬新なテイストだ。

でも、気持ちが落ち着いてきたぞ。

なんだ。

私ってば、お腹がすいてたから、情緒不安定になってのかも。


そうだ。

このタイミングで、なんでホテルにいるのか、聞いて……みる?

「あの、課長……」


課長に話しかけようとした時、


ポンポンポーンポーン♪
チララ~リラ、チラララリラ~♪


部屋のチャイムの音と、私の携帯が同時に鳴る。


お互い同時に立ち上がり、課長はドア口に、私は寝室に向かう。

そして、急いでバックの中を探る。

携帯には『佐久間大明神』との表示が出ている。

「もしもし、杉原ですが」

「あ!良かった杉原君。無事、家に帰れたみたいだね」

「はい。お陰さまで」

……っつーても、家じゃないんだけどね、ははっ。

「杉原君、すごく酔ってたからみんなで心配してたんだよ。ちゃんと帰れるかなって」

「ご心配お掛けしてすみません」

そんなに酔ってたんだ。

記憶にない。

どんだけ酔ってたのよ、私ってば。



「ありがとう。臭いはないみたいだな」


隣りの部屋のドア口から聞こえる課長の声にドキリとして、慌てて寝室の扉をそぉ~っと閉める。


「なに?誰かいるの?」

するどい佐久間さんの質問にゴクリと唾を飲む。

「てっ、テレビですよ!」

「そう?なんか、課長の声に似ていたような気がしたんだけど」

「良くある声ですからっっ!!」

「そうかな。あれだけの美声の低音ってなかなか……」


課長仕込みの佐久間さんのリサーチ力にタジタジになりながら、わざとらしくないよう話題を変える。


「ところで、佐久間さん。何かご用があったのではないですか?」

「あ、そうそう。来週、会社に来る時は、すぐに課長に謝っておいた方がいいよ」

「課長に謝る?何をですか??」

問い返しつつも、なぜだか悪~~~い予感がして電話を持つ手に力が入る。