それから、1時間後。

課長が用意してくれた車に乗り込み、病院に着く。

病院では、かぁちゃんが一人廊下の長椅子に座っていた。

「かぁちゃん!どがんね、ふみねぇは!!」

「あ、あら……」

一瞬、かぁちゃんの目が課長を捉え、ピカピカ輝く。

「先生の方から、もう自然分娩は限界だから、帝王切開にしましょうってお話があったわ。もうそろそろ産まれる頃じゃないかしら」

か、かぁちゃん……。

そんなに課長の前で、都会モンを気取りたかと?

私の目が、割り箸一本で隠せそうなレベルまで細くなった頃、赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

「う、産まれたばいっ!!」

かぁちゃんが、両手を挙げて万歳する。

「ほら、由紀、あんたもボケッとせんで、喜ばんねぇ。

……ほんなごて、この間まで、生きるか死ぬか言いよったけん、心配したさぁ~」

私の頭をバシバシ叩くかぁちゃんの目には涙が光っている。

私とかぁちゃん、と、課長(←いかん。忘れとった!)の目の前を、小さな赤ちゃんが台に乗せられてカラカラと運ばれて行く。

か、可愛い~~!

「あれ?そう言えば、大垣さんは?」

「ああ。富美代の出産に立ち会うっちゅーて、言いよったけど、ビデオ持ったままぶっ倒れて、今、処置室で横になっとんさったい」

と、かぁちゃんが話している途中で、大垣さんが「ふみちゃ~~~ん!」と言いながら、ビデオ片手に分娩室に駆け込んでいく。

「まだ、処置中ですから!」

……先生に追い出されたらしい。

トホホな感じで出てきた大垣さんが、私達に気付く。

「この度はご出産おめでとうございます」

私たちからの祝辞に大垣さんの相好が崩れる。

「ありがとうございます。3015gの男の子でしたよ」