課長の告白に、こんな大事なことを自分が知ってしまっていいのかと胸がドキンドキンと鳴る。

「動悸、すごいな……。上がらなくても大丈夫か?」

「い、いえ……。大丈夫です」

さすがに胸の鼓動が課長の手に伝わるらしく、心配してくれるんだけど、でも話しが聞きたい。

「それを、お父様は知っていたんですか?」

「俺は家に帰るとおふくろに詰め寄ったんだ。

そのとき、運悪く、親父にも聞かれてしまった……。

そのときからだ。親父がおふくろに暴力を振るうようになったのは……」

あの明るい美魔女様にそんな壮絶な過去があったなんて……

胸が痛む。

「でも……俺は……。その時はおふくろを軽蔑し、親父の暴力に苦しむおふくろを見捨てたんだ。

伯父に金を出してもらって、学校にある野球部の寮に逃げた……」

「……課長」

「全てから、目を瞑って……俺は、逃げたんだ。
野球にがむしゃらに打ち込み、それ以外の全ての思考を俺は拒否した」

課長の手が小さく震えているのが分かる。

私は課長の手に自分の手を添えるとそっと抱きしめる。

「だから、ドラフトで指名された時、俺は罪の集大成を見たようで、その罪の重さに慄いた。

ドラフト指名は、この怪我をしなくても断るつもりだった……。

穢れた俺には、その華々しさが……回りからの羨望の目が……死ぬほどつらかったんだ」