顔を背け、必死に佐久間主任の唇から逃れようとする。

「さく……ん、ぐっ……」

だけど、佐久間主任は私の頭を両手で押さえつけ、逃すまいとキスをしてくる。

課長は忠告していたのに

私がスキだらけだったんだ

だけど

だけど

こんなのってない……。

力が抜けて、抵抗していた手がダランと落ちる。

「杉……原……?」

と、同時に、佐久間主任のキスが止まり、ようやく体を離してくれる。

「私……佐久間主任のこと……好きです」

「……」

「入社して、あの狭いトレーダー席で……。

左隣に課長、右隣に佐久間主任がいて……。

最初の頃は、課長がすごく怖くて……。

でも、いつも佐久間主任がそっと助けてくれて……。

だから、今まで頑張れたんだと思います。

とても……感謝して……」

涙がじんわり溢れてくる。

楽しかった日々。

課長が怒って、佐久間主任はツンとしてて……

だけど、本当は2人とも優しく厳しく私の成長を見守ってくれたんだ。

私は体を起こすと、真っ直ぐに佐久間主任を見据える。


「佐久間主任にはとても感謝してます。

でも、私が愛してるのは課長です。

一生をかけて愛していきたいのは課長だけなんです」


佐久間主任が呆気に取られたように、力を落とす。

「ははっ……お前って……。そんな顔もするんだ……」

佐久間主任は頭を抱えるとそのまま黙り込んでしまう。

「……行けよ」

「佐久……」

「行けって……。でないと、抱くぞ」

佐久間主任……。

私はバッグと上着を手にすると、佐久間主任に頭を下げて、部屋を後にした。