課長……。
そんな……
そんな気持ちを抱きながら、ずっと生きてきたんですか?
出口のない暗闇の中にうずくまる小さな少年のような課長が見える……。
課長の悲しみが、苦しみが、震える体から伝わってくる。
「課長は、お父様が嫌いですか?」
「いや……」
「憎んでる?」
「憎んでなんかないさ」
「じゃ、行って下さい。行って、それだけでも伝えてきて下さい。
病院でお父様にお会いしたとき、お父様、言ってました。
『父親として失格だった。あいつはきっと今も憎んでいるだろうな』って」
「親父が?」
「違いますよね?だから、行って下さい!やり直せるうちに、ちゃんと伝えてください。
遅くなんかない。まだ、間に合いますから。
課長……、お父様のこと好きなんですよね?」
課長が小さく頷き、私をきつく抱きしめると、何度も何度も震える息で深く深呼吸する。
やがて、私の腕を掴んで体を離すと、そこには穏やかな課長の顔があった。
「……行ってくる。由紀、後を頼む」
課長は私の頭をポンと軽く叩くと、出口を目指して駆けて行った。