「課長、ネクタイ、曲がってます」

「えっ?……ああ」

「ちょっと待ってくださいね」

ちょこちょことネクタイを直す。

課長……。

やっぱり何かあったんだ。

息が震えている。

こんな課長見るの……初めてだ。

「課長、話してください。何か、ありましたよ、ね?」

課長の手を握り、見上げる。

課長の手が震えてる。

課長が私の手を解くと、そっと私を抱きしめる。

「……親父が……もう持たないらしい。俺の名前を呼んでいると、さっきおふくろから……」

「課長!だったら、行かないと!」

「もう……遅いんだよ。あの事件以来、10年以上、親父には会ってない。

どの道、俺は親父の血を分けた本当の子供じゃない。それに、俺の血は……薄汚れてる……」

課長の私を抱きしめる体が震えていた。