「お電話ありがとうございます。トレードシステム証券でございます」

「もしもし。私、澤村と申しますが、大至急、奥田取締役に取り次いで頂けませんか?!」

こ、この声は?

「あの……もしかして……澤村専務の奥様でいらっしゃいますか?」

「……あなたは?」

「杉原です。杉原由紀です」

「まぁ!良かったわ!あなたが出て下さって!ごめんなさいね。かなり急いでいるの。すぐに巧ちゃんに替わって頂けるかしら?」

すごく急いでいるような課長のお母さんの声に押されるように、私は急いで課長を探し回る。

いた!

課長は、新聞社の人と歓談中だった。

「課長!すみません。ちょっと急ぎのお電話が!」

「急ぎ?」

「保留にしていますから。社長室で1番を取ってもらえますか?」

課長は「ちょっと失礼します」と記者さんに告げ、社長室に入ると電話に出る。

「もしもし。奥田ですが。……ああ。そう……ですか」

急ぎのはずの電話を、課長はほんのちょっと話しただけで切ってしまう。

でも、課長の顔が真っ青だ。

「……課長?」

課長、私の声が聞こえないみたい。

電話を置いた手が微かに震えてる。

「課長!?」

課長の背中が、びくっとなる。

「どうしたんですか?一体……」

「……何でもない。擬似売買が始まる。行くぞ」

だけど、どう見ても『何でもない』って感じじゃない。

課長のお母さんの様子もおかしかったし……。

「待って下さい!課長!!」

私は、課長の行く手を通せんぼする。