「あっ……」

まさか、こんな風に課長と会うとは思わなくて言葉が出てこない。

課長もビックリしたようで、そのまま固まってる。

そうだよね、昨日の今日だもん。

あんなタンカ切った後だけに、バツが悪い。

「由紀……」

予想外に優しい課長の声に、危うく目がショボショボになる。

「わ、忘れ物、取りに来たんです。課長のいないときに……と思って」

マンションのチャイムを鳴らしておいて、この言い訳は苦しいかな、なんて思う。

それに、忘れ物なんて何もない。

「……入ってもいいですか?」

「好きなときに、いつでも」

課長が下駄箱側に寄り、私のために通り道を作る。

「忘れ物を回収したらすぐに帰りますから」

「……分かった」

課長は、そのまま、リビングにあるパソコンの前に座る。

なんで?

倒れたって……。

しばらくは安静にしなくちゃいけないのに……。

「課長!なんで、仕事してるんですか!?」

「今日までの急ぎの仕事がある」

「仕事って……。そんなんだから倒れちゃうんじゃないですか!」

つい口を突いて出てしまった言葉にはっと我に還る。

課長が驚き、仕事していた手を止める。

「知ってて……来てくれたのか?」

「知りません!課長は、自分のことはいつも二の次で、ちっとも体のこと考えてない……」

私は、キッチンのシンクの下に密かに備蓄して置いたお米を出すと、洗っておかゆの用意をする。

「今、おかゆ作りますから、ベッドでちゃんと寝て下さい。仕事はダメです」

「由紀……」

「作ったら私、さっさと帰りますから。ちゃんと食べて、寝て、人間らしい生活を送って下さい!分かりましたか!?」

睨みつける私に、課長が後ずさる。

「分かったよ。お前は怒るとすごく怖いな……」

涙声で叱りつける私に、課長が観念したように微笑み、ベッドルームに向かった。