もしかしたら、この会社だったら、端債を買ってくれるかもしれない。

特に、この1社は、やばそうな国の国債まで持ってる。

それらヤバ目の玉(ギョク)、合わせて20億ちょっと。

林さんが眉間にしわを寄せる。

「こりゃ~かなり、しこってるぞ(相場が予想に反して値下りしたため、売買が出来なくなり、身動きが取れなくなってしまった状態)」

「でも、もう他で売って、持ってないかもしれませんよ」

「いや、僕の勘ではその可能性は薄い。そもそもそんなにバタバタ商いをやるようなとこじゃないし。それに端債も幾つか持っているから、かなり有望だ」


林さんの力強い言葉に、勇気が沸いてくる。
それでも、5糸甘は高いからなぁ……。

う~~ん。

じぃぃぃっとポートフォリオを見ながら、課長の言葉を思い出す。

「複雑な問題こそシンプルに。
シンプルな問題ほど複雑に、多角的な角度で見ろ」

複雑に、シンプルに。
シンプルに、複雑に。

ん?!

ちょっと待って!

「じゃぁ、これらの国債と入れ替えの玉を用意して、それに端債を乗っけて出してみるっていうのはどうでしょう?」

「抱き合わせか」

「あ。そうそう。それ!」

「いけるかもしれんな。端債は5糸甘で動かせんが、入れ替え玉の方はディーラーとの交渉次第では、売り買いどっちかを甘くしてもらうのは可能かもしれんな」

「交渉してみます!」

「じゃ、そっちの方は杉原ちゃんに頼もうかな」

追い風が吹いてくる。

なんか、楽しいぞ!

窮地に追い込まれているんだけど、ワクワク感が今までと全然違う。

それから詳細を詰めて、後場引けの後、この会社に2人で訪問できるよう林さんがアポを取ってくれることになった。

林さんに後光が差して見える。(←決して、林さんの髪の毛が年の割にザンネ~ンと言う訳ではない)


「これが出来れば、奥田課長をギャフンと言わせることが出来ます!」

「あ?ああ。そう……だな。ま……いいか」


なんだか、林さんの歯切れが悪い。

そうか。

林さんは仏様だから、例え鬼であってもギャフンなんてすることに抵抗があるのかもしれない。

林さんってば、本当に優しい。

「じゃ、後場引けの後、1階の受付前で!」

林さんに元気に手を振ると、私は13階目指して一気に駆け上がる。