佐久間主任のこの眼光がメッチャ苦手だ。

まさに、蛇に睨まれたカエル状態になってしまう。

「あ!そうだ!課長からこの書類を『佐久間君に渡すように』って頼まれてました」

「奥田さんが?」

コクンとうなずくと、抱きしめていた書類を佐久間主任に手渡す。

ガサゴソと書類を開けながら、佐久間主任がボソリと言う。

「奥田さんと逢ってたんだ。日本で」

「あ、え、まぁ……。たまたま?」

「へぇ~。すごい偶然だね」

いちいち含みのある言い方、やめて欲しいよん。

追い詰められ感、ハンパないんですけど。

笑顔が不自然に引きつってしまう。

佐久間主任が封筒の中から、さらに固い茶封筒を取り出し、手が止まる。


『CONFIDENTIAL』の文字が見えて、お互い顔を見合わせる。


「コンフィデンシャル?『社外秘』って……。杉原君、この書類について事前に何か聞いてる?」

「いえ?特に……」

「開けるぞ」

佐久間主任が急いで茶封筒についてる紐を解き、中を開封する。

中には英語で書かれた書類が複数部入っていて、佐久間主任の目つきが変わる。

「『NDA』って。うちとバンカメと……待てよ、複数社分ある」

「『NDA』って何ですか?」

「Non-disclosure agreement(ノン-ディスクロージャーアグリーメント)の略で『秘密保持契約』のことを言うんだよ」

「ノン……」

ノンノーン??

覚えられませ~ん。

「お互いが秘密を漏らさずに秘密裏にコトを進めるときに締結するんだよ」

コキュ?

首が折れそう。

何のことだか……。

「奥田さんは、とんでもない爆弾を君に持たせたもんだな。一体何を始める気なんだ。とりあえず、急いで社に戻って、書類に目を通すぞ!」

佐久間主任の緊迫した様子から、この書類がとんでもない書類だということだけは分かるけど……。

何をしたんですか?課長??