その日は前場が始まっても、課長はトレーディングルームに姿を現さなかった。

佐久間さん情報によると本部長に呼ばれたらしい。

正直、ほっとした。


今、課長に会ったら、なんか、泣いちゃいそうだ。


なんでだろう……。

胸の奥が辛くて

苦しくて

やるせなくて

切なくて

こんな感情を何て言うんだろう。

22年も生きて来たのに、自分の心の中が理解出来ない。

こんなこと、初めてだ。


全然仕事に集中できないまま前場が終了し、急いで林さんに相談に行こうと、トレーディングルームを出る。

エレベーターホールに駆け込むと、運悪く課長がいた。

しかも、気持ちの整理がつかないまま、課長と一緒のエレベーターに乗り込んでしまうはめになってしまう。

乗った早々、課長は腕を組んで壁に寄り掛かり、私をちらっと睨みながら口を開く。


「どうだ。気持ちの整理は着いたか?」

「えっ?!」


課長の質問にポカーンと口を開ける。

な、何で知ってるの?

私が課長のことで頭の中がぐっちゃぐちゃになってること……。



「シッポ巻いて逃げるんだったら早いうちだぞ」

「逃げるって……?」


何のこと?


「お前に、あれを3日で売りさばくなんて到底無理だ。
とっとと荷物をまとめて、大人しく転属の辞令でも受けることだな」


……人がこれから頑張ろうとしている時に、何で水を差すことを言うかな、この男はっ!!


胸の奥が煮えくりたぎって

腹が立って

ムカついて

こんな感情を何て言うか、私はバッチリ知ってる!


マジでいつか、ぶっ飛ばしてやる、この鬼畜課長!


ほんの一瞬でも、同情してうるるっと来た自分がバカだった。


「私、逃げたりなんかしませんから!
絶対3日であの玉をハメてみせます!」


私は顔を上げると、課長に負けじとキッ!とにらみ返す。