エレベーターに乗り込んで、なんとかギリギリナースステーションに滑り込む。

課長の指定時刻まで、後30秒のカウントダウン。

そして、ほぼぴったりにナースステーションの電話が鳴る。

ナースステーションにいる看護師さんが電話を取り、「いいえ、こちらに杉原と言う者はおりませんが」と言って、交換台からの電話を切ろうとしている。

「すみません!切らないで!」

事情を手短に説明し、課長からの電話を受け取る。

『これから出張であまり時間がないから、手短に言う。

結論から言うと、出産は可能だ。

国内としては、東京の聖セイント大学病院での実績がある。

30例と今のところ症例は少ないものの、癌の治療をしながらの出産に成功している。

その後、母子共に後遺症や、副作用などはないと報告されているようだが、まずは大垣夫妻の意思確認が必要だな』

「課長!ゆきねぇ、出産できるんですか?!」

『ああ、妊娠5ヶ月以降であれば、という条件付だったが』

そうか。
それで、さっき「5ヶ月」って課長は確認してたんだ。

「ありがとうございました、課長!私、早速2人に聞いてみます」

『頑張れそうか?』

「もちろん!」

希望の光が差してきたんだもの。

今日からは、絶対に課長に足を向けて寝ないと心の中でそっと誓う。

『これから、BNPパリバに出張する。3日後に日本に寄るからその時会おう』

「はい!」

電話を切ると、私はゆきねぇの病室を目指して早足で歩き出す。

胸に灯った微かな希望を抱いて。