誰だったんだろう。
あの、美女。
私の名前、フルネームでかんっぺきに言い当ててた。

知り合いなのか?

「う~ん……」

会社の取引先の奥様、とか??


一生懸命思い出そうとしたけれど、やっぱり記憶にない。


ま、いっか。
わかんないし。

それよりも、ふみねぇだ。

ナースステーションで部屋を聞いたら、ふみねぇはまだICUだと言う。

「なんでですか?一命は取り留めたって聞いたんですが」

「詳細は担当医の方から説明がありますので」

「説明って……」

ナースステーションのカウンターにかじりついていると、突然、後ろから腕を掴まれる。

「由紀?!あんた帰って来とったとや?」

「かぁちゃん!」

顔を見てぎくっとする。

かぁちゃん、目が赤い。

「ふみねぇは、どうしたと?本当に大丈夫なん?」

「……交通事故起こしてしもうて。信号無視して飛び出してきた自転車ばよけて、電柱に激突したらしか。でも、富美代の乗っとったんはトラックやったからなんとか助かったばってん、これが普通の乗用車なら死んどったって」

かぁちゃんの説明にぞぉ~っと背筋が凍りながらも、とりあえず無事そうで良かった。

ほっと胸を撫で下ろす私に、かぁちゃんは「安心するのは早か」と声を落とす。

「富美代の腹ン中には赤ん坊がおるとさ」

「えっ?!あ、赤ちゃん!?」

かぁちゃんが、コクンと小さくうなずく。

ふみねぇのお腹の中に赤ちゃん?

「赤ちゃんは……大丈夫だったと?」

「今、精密検査中とか言いるばってん……」

声を詰まらせているかぁちゃんの肩を、病室から出てきたばかりの父ちゃんがそっと抱き寄せた。