「榊室長!やめてください!下ろして!下ろしてください!!」

肩に担がれながらも、彼の背中をポカスカたたく。

「静かに!人に聞かれる!」

榊室長のボケラッチョ!

人に聞かれるように叫んでるんでしょーーーが!!

奥まった部屋に入るなり、私を肩からすばやく下ろすと、榊室長は私の口をふさぎ、壁に押さえつける。

「いいですか?私が手を話しても大きな声を出さないで頂きたい。
もし、大きな声を挙げたら……」

榊室長の目がキラーンと鋭く光り、恐ろしさに思いっきりウンウンと首を立てに振る。

「約束ですよ」

ごくっと唾を飲み下し、真剣な眼差しで最後にもう一度ウンと首を立てに振る。


そこでようやく榊室長の手から解放される。


榊室長も私が逃げないと悟ったのか、ほっとしたようで私に背を向けて、部屋の反対側へと歩いて何かを手にして戻ってくる。


「とにかく今はこれに着替えてください。話は着替えながらでも。私はこちらで背を向けていますから、ご安心を」

着替える?

これ、私が車で運び込んできた課長からもらったドレスだ。



私は部屋をキョロキョロ見回し、「あの……隣の部屋とか、バスルームで着替えてもいいですか?」とおずおずと尋ねる。

「さっきのように逃げられたら、たまりませんから。ここで」

榊室長の強い言葉に、こりゃ無理だべさと観念し、箱を受け取る。

すると、榊室長はクルリと背を向け、さっきの言葉通り目の前の椅子に腰を下ろす。


マジで?

き、着替える??

ここで?

信用しても……いい?

ええええええーーーーい!

迷っている場合じゃない。

とにかく着替えろって言うんだから、とっとと着替える!

ブラウスを脱ぎ、急いでドレスを箱から出す。

ぎょっ。

このドレス、もしや、ブラ…は紐が……出る感じな気がする。

取るの?ブラ……

「杉浦さん」

「ひっ、ひゃいっ!!」

驚いた勢いで、へんてこな返事をした上、まごついていたブラが外れてしまう。

いかん。

回収、回収。

かがんでブラを取ろうとしていると、榊室長が思いがけない人の名を告げる。


「奥田取締役は、広間にいらっしゃいます。着替えが終わられましたら……」

えっ?

奥田課長??

なんで奥田課長の名前がここで出るの?

ブラを掴んだその瞬間、部屋の扉が勢い良く開く。


「奥田取締役!」

「課長!!」

榊室長と私は、ものすごい形相の課長の顔に凍りつく。