あれほど、課長に警告されていたのに……。

すみません、課長。

私、もう絶対、気を抜きません!

気を取り直して、厨房に戻る。

そして、包丁をぐっと握り直し、急遽、追加で入荷したキャベツを片っ端からものすごい勢いで真っ二つにぶった切る。


ふーーーっ。

すっきりじゃぁ~。

でも……

どぉしよぉ~。

不意打ちだったとは言え、佐久間主任とキスしてしもうただに……。

かすかに触れた唇にそっと指を当てる。


……やばいよ。


額に滲む汗を拭っていると、背後からポンと肩を叩かれる。

「ねぇ、杉原ちゃんって、佐久間主任と付き合ってるの?」

ぎょっとして振り向くと、そこにはあのKY横田が!

「えっ?!ううん!!付き合ってないし!ぜんっぜん、付き合ってないから!!」

「あ~やし~なぁ~」

「妖しくないから!!!!」

平常心を取り戻すべく、気を取り直して再度キャベツに挑みかかっていると……


「じゃさ、なんで二人、さっきキスしたりしてたわけ?」

ボトン!

思わず振り向きざまに包丁を落としてしまう。


「こっぇ~!!!包丁落とすなよ」

僅か1cmのところで、包丁がKY横田のつま先をかすめている。


「ごごごめん!!」

「いーけどさ。別に。言わないけどさ、誰にも」

「言わないも何も、本当に付き合ってないから!」


無視無視!
今はこいつの言うことに耳を傾けている時間なんかない。

とにかく無視して、キャベツを入れるボールを取ろうと棚の上のボールに手を伸ばしていると、それでもKY横田は背後でくくっと含み笑いをする。


「……いや、言わないって言うのは、付き合ってる云々じゃなくて杉原ちゃんと佐久間主任がキスしてたってこと」

ガラガラガッシャーーーーン!!

「いってぇぇぇ!!」

手を伸ばして取ろうとしていたボールが見事手から雪崩れ落ち、私の背後にいたKY横田氏の頭に見事に直撃した模様。

「なに、やってんだよ!」

怒るKY横田の手を両手でぐっと握り締める。

「お願いっっっ!!絶対誰にも言わないで!」
「杉原ちゃん……」
「絶対、誰にも!」


特に課長に!!