ランチと言うにはあまりにも遅過ぎる夕暮れ間近のランチ。

梢を渡る風が夕闇を今にも連れてきそうだ。

無言のまま食べる私たちの間を少し寒くなってきた風だけが通り過ぎる。

「……課長、ちゃんと食べてますか?」

「食べてるよ」

「でも痩せてます」

そして、課長は無言になる。

「……振られたからな。誰かさんに」

「ぶほっ!!」

「……」

「キャーーーーーーッッ!!!す、すみません!」

慌てて、課長の顔に吹き出してしまったホットドックをとっさに掴んだ布で拭く。

「杉原」

「へっ?!」

「それ、俺の上着」

ぎょ、ぎょえーーーーー!!

「かっ、重ねがさね申し訳ございません!!」

ティッシュ!ティッシュ!!

ティッシュを探して振り返った瞬間、手がスープに当ってしまった模様。

課長の上着に、満タンのスープがゴロリ。



課長「……」

杉原「……」


お、オーノーォォォォ!!


もう心の中はムンク状態。


さっきまで寛いでいた課長がムクリと体勢を直して、私の頭をポンと叩く。

「落ち着け、杉原。お前が焦るとたいがいロクなことはない」

「……すみません。弁償します」

「いいよ。悪かったな、さっきは俺も嫌味だった」

「えっ?」

「その誰かさんにもよっぽどの事情があったんだろう。俺と別れたいと言うほどの事情が」

「……課長」

「社に戻るぞ」


課長は上着に手を伸ばし脇に抱えると、空いた方の手を私に差し伸べてくれる。


ためらいがちに掴んだ課長の手は、夕暮れ時の風のせいかひんやりしてる。


課長の肩越しに眩しい夕焼けが射す。

太陽の光がまぶし過ぎて、課長の顔がよく見えない。


手を離した次の瞬間には、課長はクルリと私に背を向けて歩き出す。

その背中がとても寂しそうで、切なくなる。