「す~ぎ~は~ら!!これはどう言うことだぁ!!」

さっきの『課長可愛い』発言撤回。

まるで風神雷神図屏風から飛び出して来たかのような見事な鬼っぷりに、思わず、「ひゃっ!」っと肩を竦めて、ハンドルから手を離す。

「おわっ!!」

課長の手が慌ててハンドルを掴む。

「バカヤローーー!!!手を離すんじゃねぇっっ!!!!」

「す、すみません!今すぐ、バック……」

「ふざけるな!バックできる訳ないだろう!!」

「じゃ、じゃ、課長、どうすれば……」

「行けっ!突っ込め!!」


行けって……

突っ込めって……


鬼の形相の課長の気迫に押されるままに、ハンドルをしっかりと握る。

課長は後部座席にあるカバンからETCカードを取り出し、目にも止まらぬ神業でカードリーダーに差し込む。

バーを突き破りそうなギリギリのタイミングで「ETCカードが挿入されました」との天国からの声が降って来る。

ほぉっとしたのも束の間、必死でハンドルにしがみつき、ガチガチ震える。


「課長ぉぉぉぉ~、すみませ~ん。
私、ダメです。高速教習で一度事故りかけて……自信ありません」


そう訴えている間にも、後続車に煽られ、泣きそうになる。


「杉原……」


課長に絶対怒鳴られる。

そう思えば思うほど、体がガチガチに硬くなって来る。

だけど、返って来た課長の声は意外だった。


「大丈夫だ。何があってもお前の隣には俺がいる。自分を信用できなかったら、俺を信用しろ」

課長の手が優しく私の肩を叩く。

「それに万が一何かあったとしてもお前を恨んだりしない。俺の命、お前に預けた。だから、安心して運転しろ」

「課長……」


不思議だ。

いつもは恐いはずの課長の声に心が安らいで行くのが分かる。


そうだ。

こんなことで死んでたまるか!

キスにエッチに結婚式!

女の人生のフルコースを味わわずして、死んでたまるか!!

とにかく、生きて帰ってやる!

私は前方を睨みつけると、勢い良くアクセルを踏み込んだ。