「よく、来たな」

何となく歯切れの悪い課長の言葉に、どう反応していいのか戸惑う。

「じっ、辞令ですから!」

「来ないかと思ったよ」

「……辞令ですから」

いかん。

課長の美声がビンビン胸に響いて、目がショボショボになる。

「一緒に食事でもしながら話を、と言いたいところだが、これから社外で会議がある」

そこまで言うと、課長は窓の外を見つめたまま黙り込んでしまった。

私はゴクリと唾を飲み込むと、「あの……課長……メールは?」と今にも消え入りそうな声で課長に質問する。

「読んだよ」

心なしか課長の顔が一瞬歪んだような気がする。

でも、気のせいだね。

瞬きして見なおした課長の顔はいつものポーカーフェイスだ。

課長は一呼吸つくと、また考え込んで、それからようやく口を開く。

「だが、その話は後だ。来て早々悪いが仕事をしてもらう」

ぎょっぇぇぇーーーー!

さすがカチョ。

来て早々に仕事をご用意して頂けるとは!!

「パソコンは俺のを使ってよし。パスワードは全て東京本社の時と同じだ。覚えてるか?」

コクンと頷いて、課長の後に続いて、机の上のPCが開かれるのを見る。

「お前のデスクもPCもまだ手配中だから、しばらく作業はここでやってもらう」

一気に仕事モードに突入し、久し振りの課長からの仕事に緊張が走る。

メモ用意しなきゃだよ、メモっ!

課長からの仕事のオファーに頷きつつ、どっと汗が吹き出る。

「これを今日の4時までに。どうだ?出来るか?」

「は、はい!」

そう答えながらも汗がさらに吹き出る。


4時?!

それはかなり無理メな仕事な感じがしますです、課長。

「じゃぁ、頼んだぞ」

なんとかひきつった笑顔で課長を見送った後、茫然とPCを眺め、そしてここ、NYに来たことをめちゃくちゃ心の底から後悔する。


「課長のメールに書類……。全部英語で書いてあるよ」